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[コメント] オデッセイ(2015/米)

日本にとっての近未来SFではないか。ニクソンの中国電撃訪問が想起された。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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基本、気持ちのいい話で愉しめた。撮影は凡。「どこへ行っても人類初めての場所だ」という主人公の感慨に続いて、工作車が走ってくるのを先の高台でキャメラが待ち受けるのには呆れた。これでは昔のビートたけしのギャグそのままではないか。「地球との時間差は12光年分ある」と云いながらクライマックスが同時中継な演出なのも違和感がある。この辺り、SFの新たな映像表現を試みるにうってつけの舞台なはずなのに、何にもしないのは、老境の監督の安定と自信と云うべきなのだろう。

ベストショットは宇宙船のなかを空中遊泳する美人船長。更地に戻った芋畑はお決まりだが寂しかった。そう云えば、科学的な意匠満載の割に、芋ばかり食べていてよく病気にならないものだと気になった。他に薬物で栄養取っていたのだろうか。最後のミッションを提案する学生が柄本祐そっくりで、似たような役柄なのが面白かった。

そんなユルい感想ばかりが浮かぶなか、中国はすごかった。私は軽い衝撃を受けた。ニクソンの中国電撃訪問の折に日本が味わった衝撃にこれは似ているのではないかと思った。

もちろんこれは理想であり、中国が軍事機密を曲げてまで人道援助をするとは想像できない(それとも高度な駆け引きをするだろうか)。これはハリウッド乃至はスコット組の一方的なラブコールだ(最近のハリウッド映画には疎いのだが、諸兄のコメントからは少なくとも珍しい表現と思われます)。ハリウッドはアメリカの良い方の顔でしかないという事実があるにしても、中国共産党が酷過ぎる故、これは本質的に善意の問いかけだ。本作は中国ではノーカットで公開できるのだろうか。

さて、もし中国が突然、このような協力を受け入れ、それが見る間に加速されたとすればどうなる。日本は一気に国際関係からはじき出されるだろう。本作の同時中継など、誰も熱狂できまい(痛いことに、映画は見事に日本を無視している)。それは当節のアジア軽視外交のもたらした罪と罰であるだろう。アメリカは裏切るぞ、アメリカべったりではニクソンの時と同じことになるぞという、日本にとっての教訓劇だ。曲がった見解だが、何よりもこの件が近未来SFとして生々しかったので1点加点したい。

(評価:★4)

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