[コメント] 散歩する侵略者(2017/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
無表情の侵略者とくればひと昔前はソ連の隠喩と決まっていたものだ(『怪獣大戦争』とか)。本作は時節柄、久々にそれを思い出させるものがある。「家族」やら「所有」やら「仕事」やらの概念を奪ってゆくのもコミュニズムっぽい(「共産党宣言」では家族も止揚を目指されるのだ)。海の上での爆発に車の影に隠れる長澤まさみと松田龍平からは、本邦の最近の間抜けなミサイル避難訓練が想起される。
ただ「愛」の概念は奪えませんでした、という結論も、この何やら空疎な感じは我々世代の受難(他に肯定的なものなど何もないだろうという)と見合っているように思われる。『岸辺の旅』でのゼロ=異界が世界を支えているなどというオウム以前のオカルト噺にウンザリした当方としては、何も薀蓄傾けない「愛」はむしろ好ましかった。
(なお、牧師の「愛」との対照で長澤の「愛」を称揚するコメンテーターの方が何人もいらっしゃるが、私は反対。牧師の発言は長澤の「愛」を補足しているのだと受け取った。松田が牧師をポアしなかったこと、この教会での彼の振る舞いに長澤の「愛」が現れたことからもそれは裏付けられていると思う)。
しかし、長澤が松田に示すに至る「愛」とはどういう類のものだったのだろう。アガペーというには半端だし、最後まで松田は宇宙人なのだから夫婦愛とも関係がないはずで(あれも夫婦愛なんですか?)、むしろバディ・ムービー好みの腐れ縁に情が移る関係に近かろう(それは物語上、長谷川博己が高杉に示すある種の離れ難さに近似するはずだ)。
収束近くなると長澤はほとんど躁病のようにはしゃいでいる。私はこうなるとどうにも判然とせず、本作がコメディだから彼女は笑っているのだろう、位の感想で追及を打ち切ったことだった。コメディなら何でも許されるのだろう。
しかしかの国も将軍様「愛」でやってくるからなあ。これしきの「愛」で太刀打ちできるのだろうか。次回作はあれらも呑みこむ地球規模の大きな「愛」を、シニカル抜きで描いてほしいものだと希望したい。いやマジで。それが語れないなら、何から何まで真っ暗闇よ。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。