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[コメント] ファースト・マン(2019/米)

狭い宇宙船に閉じ込められている閉そく感を、激しく揺れる画面と音響で最大限表現した映像は、かつてない臨場感で迫ってくる。命をかけるという恐怖をこれほど感じた作品はない。月面着陸という前代未聞の偉業を成し遂げた男の内面を支えたものは何だったのか、強さと切なさを併せ持った男の内面をさぐる。
jollyjoker

プライベートをほとんど語らず無口だったという印象のアームストロングをライアン・ゴスリングは良く演じた。何を考えているかわからない無表情が評価を下げているようだが、この無表情は、アームストロングが娘を亡くした絶望感を敢えて封じ込めた結果だと感じた。アームストロングには下手に口を開くと弱さが露呈してしまう恐怖があったのではないか。

莫大な資金をかけながら多くの同僚を亡くし、それでも宇宙開発は国家の使命である。それにひきかえ小さな娘の治療法はなく金のかけようすらない。命の重さを人一倍感じていたアームストロングは自分の命を懸けて使命をまっとうするしか、娘へ顔向けできないと思っていたのではないか。身体的な苦痛は彼にとっては大したことではなく、むしろそれを乗り越えることが試練だと思っていたのではないか。現実に目の前にいる妻や息子たちに正面からうまく向き合えなかったのは、彼が「普通の男」であり過ぎたためかもしれない。死を常に感じながら、娘の死を受け入れられなかったのではないか。いつまでも娘の死を受け入れられなかったアームストロングは、月へ降り立つことで漸く肩の荷を下ろせたのではないか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)Orpheus[*] ナム太郎[*] おーい粗茶[*] けにろん[*] もがみがわ[*]

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