[コメント] 私をくいとめて(2020/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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大好きな作品『勝手にふるえてろ』でもそうだったけど、主人公の女性の気持ちを描いた作品というのはあくまでも客観的にしか観られないし、それが当然だと思うのだけど、この作品、原作の作者や監督が女性にしかわからない感情を、きちんとテキスト的に男にでもわかるように再構築しているからなのか、のんの中性的な魅力のせいなのか、本日の自分の精神状態のせいなのかわからないけど、なぜだか最初っから「自分がみつ子の立場だったらどうだろう?」っていう、主人公目線に自分を誘(いざな)ってくれたのが不思議だった。
帰宅してからひとり始まる男についての「自分会議」からもう共感。三島由紀夫の「仮面の告白」は偽りの理想の自分と本音の自分の相克だったけど、ここで争っているのは、自由で気ままで傷つきたくはない自分と、独り身は寂しい・男が欲しいという自分という本音同士だからこれは審議がもつれる。「ああ、結婚してぇな」っていう悩みなら、男の場合オナニー一発でたいてい解決できるのに(多少事情は複雑ながら「仮面の告白」もそうだった)、女の子はそんな単純なことじゃないもん、うんうん、と思う。のん演じるみつ子に共感するあまり、何度となく「このまま多田くんを押し倒してヤっちゃえよ!」とみつ子側に肩入れしている私の鑑賞モードは何なのだろう? え?揚げ物ってかき揚げだけなの?、腹すかせている男なんだからここはもっとじゃんじゃん食べさせてさ、っていう感覚も、他人の目線ではなく、みつ子の中の第3者的な自壊の念が混じっているような不思議な感覚だった。「今の私たち二人、彼氏持ち」っていうのぞみさんとのひそかな幸福の共有も、澤田さんとの本願寺前での初めての私語も、自分がみつ子になった気持ちで嬉しかったし。
飛行機恐怖症から過呼吸になりそうな場面。なんとか自力で文字通り息を吹き返した場面の幸福感。「くちびる」という文字がカラフルなバルーンになってぷかぷか浮いている場面なんて自分じゃ創出のしようがないけど、案外女子にしてみればただのリアリティなのかも、なんて。一見彼女の問題意識とここでの「息の詰まる思い」は別物と、男なら思ってしまうかもしれないが、こういうのは同じ地平の問題で一続きのことなのかな?
さつき(ここで橋本愛! これ、この作品と基本的に関係ないけど「久しぶりだね」に思わずうるっとなってしまった。監督、これは詐欺だよ〜)が、つい「クジラのオブジェってまだあるんだ」の一言に、「(さつきには)遠い昔の思い出でも、私にはずっと続いている現実で、私はここから一歩も出ていない」と毒づくみつ子に、自分こそわけのわからないうちに遠い外国にきてしまってこの家から一歩も出られていない、寂しさのあまり誘って(結果的に結婚・妊娠を見せつけてしまうことになって)ごめん」と、和解し、さらに共感力を強化する女子たちが羨ましい。日頃自分の本音同士をぶつけて鍛えている女子は、他人の嘘にも本音にも鋭いんだな、と思う。ここはもともと文学的に強度があるところだけど、のんと橋本愛のこの二人の芝居なら、綿矢りさも本望だろうと思う。
綿矢りさはどう思ったか、についていえば、「A」って原作でも男の声だったのだろうか? 仮にそうだったとして、あの中村倫也の分別臭いしゃべり方だったり、主人公がビジュアル化するにあたっては前野朋哉だったりするあたりの起用法は映画ならではの表現なわけで、こういうのは原作者って、ああ畜生、文字じゃできねえわ!って嫉妬したりするのだろうか?
平成・令和になって、自分と他人というあり方がもっとも煮詰まった今の時代を生きる女たちが女たちを語る映画ができることを、例えば小津安二郎監督とか名匠の多かった時代の映画監督たちは想像しただろうか、なんて思ってしまった。中でも男と女という他人と自分の交換において、これまで女性が陰で男性をサポートし、恋愛を成立させてきたのだと思う。女性に対し自立や自分らしさを世の中が求め出してからもうどのくらいになるのかわからないけど、女は「A」を生み出したりしながら、今日にいたるまで自力でそれを乗り越えるしかなかったように思う。これからの男は、好きな女がいたら、その彼女におとなしく押し倒されていくようなそういう寄り添いが必要なのかも知れない。そんなこと今どきの若い男子はもうわかってるのかも知れないけど。
もう支離滅裂だけど最後に言いたい。アップになった、のんの肌のきれいなこと、瞳の強さの美しさ。これはもうスクリーンで体験してほしい! のんカワイイ!(一言でいえばそれ!)
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