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[コメント] 私をくいとめて(2020/日)

勝手にふるえてろ』で大九明子のシゴキのような要求に松岡茉優は体育会的ノリで応えていた。のんは「脳内アドバイザー」と会話する解離症寸前の本当はヤバイ状態の女を、持ち前の暖簾に腕押し的しなやかさで、いかにもなアラサー女に見せてしまう。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







さらに、その一人芝居的な“形態”が、だんだんイッセー尾形化しそうになるという危機を、表情と声音の巧みな合わせ技で、さらりと、く・い・と・め・る。

日帰り温泉でのみつ子(のん)の怒りの吐露で物語が転調する。そのときの、つっかえながら吐き出すような絶叫と、普段の間延びしたような彼女の口調とのギャップが、みつ子の苦しみのリアルを担保する。『この世界の片隅で』で、すずさんが玉音放送を聞いたときの悲痛な叫びを思い出した。

大九作品は『勝手にふるえてろ』、『甘いお酒でうがい』と本作を観ている。それぞれに働く女性の不器用な恋愛が描かれるのだが、少しづつ異なる彼女たちの境遇を大九監督は繊細に描き分ける。上手い演出だなあと感心するが、逆に巧みな“仕掛け”の饒舌さや、肝心なところ(今回で言えば機内の「く・ち・び・る」シーン)の過剰さを煩わしく感じてしまう。たぶん大九監督の芸風と私の相性が悪いだけなのだと思う。

主人公のみつ子(のん)以外に印象的な女性が5人出てきます。勢いに任せて自由になったつもりが、気づいたらすべてが失せていた「自由という名の孤独」の囚人・皐月(橋本愛)。駆け引きだけで生きてきて、物と心の境界が見えなくっている独身のアラフォー・ブランド女(山田真帆)。逆に恋愛と男の境界が見えない恋に恋する守旧派の恋愛マゾヒストのノゾミ(臼田あさ美)。セクハラを耐え忍び、それを武器にするというビジネスモデルで成功(金儲け)を目指すしたたかな女芸人(住吉)。

そして、職場のダメおやじを駆逐してきたという、1986年の男女雇用機会均等法が生んだ女戦士澤田さん(片桐はいり)だ。水那岐さんがご指摘のように彼女は実にかっこいい。私は澤田さんと同時代のビジネスシーンを歩んできたので、彼女が重ねてきた努力と困難を知っている。私の職歴のなかで「澤田さん」を数えてみたら10本の指では足りなかった。贔屓の引き倒しと言われてもいい。澤田さんはかっこいいのだ。

今、私の身近にも澤田さんの後を追う30代の女性がいる。仕事を持ちながら、家事と亭主の世話を(テキトー)にこなし3歳の娘を育ている。彼女は、夫とその両親からの「次は男の子を」という暗黙のプレッシャーに耐えながら、活き活きと日々を送っている。

話がずいぶん横道にそれてしまいました、が、そんなことを考えた。

(評価:★3)

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