[コメント] 聖地には蜘蛛が巣を張る(2022/デンマーク=独=スウェーデン=仏)
もうその形相が目に焼き付いてしまう(我ながら恐ろしいもので、最初の犠牲者の顔は今でも忘れられない怖い映像だが、4人目になると、少し慣れてしまったようにも感じられる)。舞台はイランのマシュハドという設定(ロケ地はトルコのよう)。イスラム教シーア派の聖廟都市だ。その夜景が最初に映されるショットは、郊外へ死体を遺棄し、バイクで市街地の家へ戻る殺人者サイードの俯瞰ショット。街の光がまるで蜘蛛の巣のように見える。こゝでタイトルイン。英題『Holy Spider』も付記されている。
主人公は女性記者のラヒミ。彼女が地元の男性記者シャリフィの協力を得て行う娼婦連続殺人事件の取材活動と、殺人者サイードの暮らしの様子をクロスカッティングで繋ぐ。サイードには妻子があり、妻のファティメと長男アリと妹。ラヒミもとてもチャーミングな女性だが、サイードの妻のファティメも魅力的だと思う。本作はイラン映画ではないので、セクシャルな場面も描かれる。映画冒頭では、上半身裸の女性が映るし、ラヒミは警察の捜査責任者からセクハラを受けるシーンがあり、サイードとファティメにはセックスシーンもある。そんな中で男性記者シャリフィのラヒミに対する純情な恋心も描かれていると私は感じた。微妙な描写なので、受け取り方次第だろうが。ただし、このレベルでも、ラヒミにとってはハラスメントなのかも知れない(特に前半は)。
本作も、ほとんど固定ショットが無く、ハンディカメラの映像を基本とし、冷徹な突き放した眼差しで被写体を写し撮っていく感覚に終始する演出だ。一番最初に書いた通り、殺害シーンはどれも衝撃的だし、全編緊張感が途切れない。また、ラヒミが自ら囮になって(娼婦になって)サイードに接触するシーンのスリルの描写も見事なものだろう。
しかし、心底ぞっとしたのは、捕らえられたサイードと息子のアリとの面会シーンだ。アリが、どうやって娼婦たちを殺したのかを、お父さん(サイード)に尋ね、その答えを聞いたアリが、父親の力強さを誇りに感じたのだろう、にっこり微笑む場面。さらに、最終盤で、ラヒミがこのアリにインタビューしたビデオ映像が流れるのだが(バスの中の場面)、これは怖いだけでなく、皮肉の効いた、周到な演出であることは間違いない。ただし、こゝが顕著だが、ちょっと作り過ぎのイヤらしさを感じてしまう演出家だとも思う。あと、サイードに下された判決の中の、鞭打ち100回の扱いが上手い。これも周到過ぎるぐらい。
#蜘蛛の意味について
劇中で「蜘蛛殺し」という言葉も使われるのだが、この場合、蜘蛛は娼婦を指していると思われる。ただし英語タイトルは「聖なる捕食者」とも受け取れる。ということであれば、蜘蛛はサイードか。いや、殺人者を捕まえるために網を張ったということでは、記者ラヒミかも知れない。タイトルバックの夜景も蜘蛛の巣を表しており、聖地自体が蜘蛛なのか。といった具合で「蜘蛛」の象徴するモノは何通りも考えられる。
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