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[コメント] 冒険者たち(1967/仏)

何というのでしょう…? 説明しづらい良さが満載の映画だ。もしかしたら、この青春、説明なんてしたくないのかもしれない。(2008.12.29.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







青春映画の名作中の名作と言って文句はないでしょう!

まず、ジョアンナ・シムカス演じる“レティシア”! 大空に夢を馳せ、凱旋門を飛行機でくぐるという挑戦を試みるアラン・ドロン演じるマヌーの青春もかっこいい。だが、それでも食われてしまうほどなのだ。

レティシアの存在はマヌーにとってだけでなく、観客にもあまりに眩しすぎるのだ。「初恋の相手が海」と話す彼女の眩しさは、コンゴの海の上で強い日差しに照らされることによってさらに輝きを増す。“レティシア”という名前の素晴らしい響きと、女神のように輝く濡れた彼女の水着姿が、崇めるべき存在として降臨している。

そんなレティシアが流れ弾によって儚くも命を失ってしまうのだ。それ以後、映画全体は勢いを失ったかのように色褪せていく。いかに、レティシアの存在が映画を支配していたかがよくわかる。しかし、レティシアの不在はマヌーとリノ・ヴァンチュラ演じるローラン、そしてシーン全体にとてつもない空虚感を生むのだ。

終盤、物語のアイコンとして登場するボイヤール要塞。あの要塞島での景観は、どのシーンでも目を見張るほどの美しさがあり、現地に行ってみたとすら思わせるほどなのだが、同じ美しさでもレティシアが放つ美しさとはニュアンスが違う。

明るい美しさを持っていたレティシアの存在に対して、要塞島の美しさはどこか儚げ、寂しげな印象を受けるのだ。この秘密の場所、ラストシーンの印象的な俯瞰ショットまで何度も登場するが、“レティシア不在後のレティシア”なんじゃないかなと思えてくる。

ラストシーン、撃たれたローランはマヌーに対して「レティシアはおまえが好きだったよ」と最後に口にする。それに対してマヌーは「この嘘つきめ」と切り返す。なんとも意味深で味わい深いやりとりなので、あんまり詮索したくない。だが、「この嘘つきめ」という台詞に憎しみがこもっていないところが何よりうれしいし、何より切ない。カメラが見下ろすのは壊れかけの要塞…。意味合いとしても、絵としても、心に残るラストシーンだ。

この『冒険者たち』、僕の中ではゴダールの『気狂いピエロ』とトリュフォーの『突然炎のごとく』の良いところを掛け合わせたような作品に、どこか思えてくるんです。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ダリア[*] セント[*] shiono けにろん[*] sawa:38[*]

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