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[コメント] 春に散る(2023/日)

ツイードのジャケットの肩に桜の花びら一片。春から始まり翌年の春までが、メインの時間軸だ。タイトルで推測できる通り、本作も重要な場面で桜の描写がある。散る花びらも、花を咲かせた大樹の俯瞰も。
ゑぎ

 主人公は2人いて、元日本チャンピオン挑戦者のボクサー−横浜流星とそのトレーナー−佐藤浩市。2人の出会いの場面が冒頭で、こゝから肌理細かな演出が続いて見応え十分だ。何よりも横浜の顔づくりの演技演出に目を瞠りながら見た。ただし、プロット構成は性急な感覚が否めず、例えば試合のシーンは全編で3回だけだが、3回目が世界チャンピオン−窪田正孝との試合、というのは信じがたいトントン拍子の展開だと感じてしまう。世界戦の前の試合、東洋チャンピオン・タイトルマッチ−坂東龍汰との試合の見せ方が7回から始まる、というのも、なんだか雑な扱いに感じられて、私はテンションが下がった。あるいは、橋本環奈の変転の描写も割愛され過ぎていると思えるなど。

 そして、窪田との世界チャンピオン戦だ。実は私も、この試合の終盤までは、とても良く出来たファイトシーン演出だと思いながら見た。アップやウェストショット、フルショットの切り替えが見事に決まり、たいへん興奮させられたのだ。しかし、それは11回までだ。本作は、こゝまで目立ったスローモーション無し。私はこのことを11回が終わった時点で、明確に意識していて、最後の回もスローが無ければいいんだけど、と思っていたのだ。それが12回になってスローモーションが入る。しかも劇伴以外を無音処理にする、これみよがしなものなのだ。ファイトシーン、顔面へのパンチは、撫でてるみたいな打ち方に見えてしまうし、応援する家族や関係者のリアクションも大仰に見える。私はいっぺんに白けた。どうしてこんなことをするのだろう。このスローの幻滅感で1ポイント下げるという感覚になった。

 あと、練習風景などで荒川の土手とその斜面が上手く使われている。『ケイコ 目を澄ませて』を思い出させる。子供たちのいる松浦慎一郎のジムが富士山に近いロケーション、というのも良い画面を作る。荒川ではない水辺で練習するシーンも、富士五湖のどれかあたりという設定かなぁと思いながら見る。それと、横浜の野毛都橋商店街(ハーモニカ横丁)が一瞬出て来た。この商店街のスナックの2階に哀川翔がいる設定。片岡礼子が写真のみで出演。フラッシュバックを使わない作劇は私の好み。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)IN4MATION[*] けにろん[*] 緑雨[*]

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