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[コメント] 男はつらいよ 柴又慕情(1972/日)

シリーズのマンネリが始まったのは本作からと特定できる。せっかくの宮口精二が半端でもったいない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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定例パターンが煮詰まり始めている。貸間ありの札から始まるドタバタはすでに『』と『純情篇』で使ったネタ(寅が戻ってきたら彼の部屋はすでに栗原小巻若尾文子に貸してある、という)だし(不動産屋に自宅を案内されるというギャグは面白いけど)、マドンナが途中から恋人の告白を始めるのはすでに毎度のことだし、吉永小百合が寅と年齢が不釣り合いなのもすでに『奮闘篇』(榊原るみ)の先例があり、このあとも山ほど使われることになる。

そこら中で重宝される松村達雄演じるおいちゃんは、エースのアクシデントによる緊急リリーフという印象が強く、抜群に巧いのだが、何故かこれまでの叔父対甥の壮絶な対決は抑制ぎみで盛り上がらない。やっぱり森川信とともにシリーズ畳んだほうが良かったんじゃないかという、残念な感想が惹起されてしまう。

いいのは吉永の周辺事情で、もうひとつ盛り上がらない友達との旅行のクサグサ(彼女らはディスカバージャパンなる国鉄・電通の商売に乗ってアンノン族をして、何だこんなもんかと醒めている)とか、旅先から夜中に帰宅して牛乳運んだりゴミ片付けたりという細やかな描写を長々描く処とか、こういう些細な鬱屈を積み重ねるのは山田洋次は巧い。いっそ寅などどうでもいいから、彼女と父の宮口精二との関係をメインに描いたほうが良かったのではないか。この感想、このシリーズの凡作にはいつも出てくるんだが。ただ、吉永を励ますのが前田吟というのは新しく、これはこれで感じいい。

本作はキネ旬年間なんと第6位。シリーズ中、5位の『相合傘』に次ぐ高評価(第1作と『知床旅情』も6位)。相対評価と云うしかないが、いま振り返れば、この年全盛のロマンポルノを褒められる者が選者に少なかったためだとよく判る。

ベストショットは寅と戯れる際の吉永の無茶苦茶可愛い寄り目。フィルモグラフィーを眺めるに、彼女が60年代を席捲した快活な娘を演じるのは、これがもう最後ぐらいなのだなあという感慨がある。寅は劇中「いつでも夢を」を口ずさむが、この歌でもって全ての人に希望を与えたサユリ様が、寅のような夢をもってはいけない人にまで希望を与えて結果不幸を招き、劇中それを間の当たりにする、という巡り合わせは思えば残酷なもので、彼女の日活スタア期の実績のアイロニカルな総括に見えたりする。

(評価:★3)

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