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[コメント] 地獄の黙示録(1979/米)

間違っても明確な目的のために川を遡行したと思ってはならない。下流域から出発した瞬間から目的探しの旅にすりかわっているという事態に我々は気づかねばならない。描かれているのは1960年代末の混沌としたアメリカ。アメリカがベトナムに介入した瞬間から、目的探しという晦渋な行為をアメリカ国民は強いられてきたのだ。
ジェリー

長大な2時間30分のうちにヘリコプターから船へと移動手段の主力が変わっていく説話の流れが、制空権のままならないアメリカのジレンマそのものを表わすと同時に、ミッションをコミットすればするだけ身動きが取れなくなっているウィラード大尉の状況を濃烈に示唆する。

この60年間、ヒトラー=ナチスのモチーフとしても知られたワグナー楽曲を自由国家の盟主アメリカの脳天気大佐が無自覚に騎兵隊の進軍ラッパの直後にヘリコプターから奏でさせるシーンに込められた痛烈な皮肉には、初見の観客たちは大いにとまどいつつ喝采したのではあるまいか。もっと優れた観客であれば、映画の登場人物の一人ランス・ジョンソンが眼前の光景を見たときに思わず口走ったように「戦争は美しい」と言ったことであろう。

美しい戦争。安全圏から眺めた戦争ほどエネルギーと創意に満ち、味方同士相和す美しいものはないことを苦い自覚と共にこの映画から教わった。(30年前に観たオリジナルの35ミリ版からの感想)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)YO--CHAN[*] DSCH[*] カフカのすあま ぽんしゅう[*]

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