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[コメント] タクシードライバー(1976/米)

「あなたは歩く矛盾ね」。きれいはきたない、きたないはきれい・・・矛盾を平然と同居させるトラヴィスのグロテスクな「正義」。ネオンの色のように、内実をよそに、その評価は移り変わる。昼と夜、陰と陽、聖と邪、善と悪、いずれもどちらが「裏」でも「表」でもなく、不眠症の熱で潤んだ瞳の中で、ぐちゃぐちゃに混濁していく。その混沌は「街そのもの」でもある。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







トラヴィスは用意周到なようで全く無計画であり、その逆でもある。ストイックなようでいて性的欲求不満の塊であり、その逆でもある。善のようで悪であり、その逆でもある。街への怒りは尤もで、その異常さは正常さでもある。だが、街にとってその正常さは異常である。これらの矛盾を内包し共存させること。どれも偽らざるトラヴィスそのものである。

トラヴィスに殺されるポン引き(カイテル)も、悪なのか善なのか判然としない。このことは事後のアイリスの描写をしないことで留保される。アイリスがトラヴィスの「正義」を望んだかは語られない。 アイリスの親は何かしら世間に嘘をついている可能性がある。 街のネオンは美しいようで、禍々しい。 夢のような、現実のような。 地獄のような、天国のような・・・

これら、何が「裏」か、「表」かという評価は徹底して行われない。ただ、街は、世界はあるがままに矛盾を抱え込んで営為を育み、生きて、死んでいく。

このドライな観察的視点が基調ではあるが、二面的な主題曲やポルノ映画鑑賞のシーン、トラヴィスの八つ当たり的な凶行が英雄扱いされるくだりなど、皮肉、諧謔の視点もある点がこの映画らしい面白さ。境界線で爪先立ちする人間の滑稽さ。このコンセプトが徹底されるこの映画はたしかに新古典の趣きがあり、「善悪の彼岸」というトピックが日本では21世紀に入ってからようやく流行り始めたのも、この映画を観ると随分間抜けな話だなと思わせられる。 (過去の名作にはもっとこういう映画があるんでしょうが、不勉強にして私は知りません)

ノワールは街がもう一つの主役でなければならないと思う。その点で推すならこの一作。

(評価:★4)

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