[コメント] 時計じかけのオレンジ(1971/英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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328コメントはすべて読ませていただきました。付け加えることは少ない。後半に関して私の感想。
人格更生処理を受けたアレックスが家を追い出される。川べりでたたずむシーン、確かにここは現実が入り込んでいて、奇異な感じを受ける。ここから映画は神話的な様相を帯びる。前半の非道に関する手痛いしっぺ返しを受ける進行が寓話的。ホームレスの反撃、警官になった悪友からのリンチ、そしてかって乱入狼藉の限りをつくした作家のHOMEにたどり着く。あきらかに仕組まれた物語進行である。作家からのベートーベンによる拷問、自殺企図は失敗する。この進行の中で違和感が一つ生じる。作家の家で目にタオルを当ててバスタブに仰向けになって安逸感の鼻歌が『雨に歌えば』なのだ。この歌を口ずさんでもアレックスは平気なのか。吐き気は起きないのか。前半のもっとも衝撃的な暴力シーンの主題歌ではないか。
自殺に失敗したアレックスが受ける心理テスト。いかにもの精神科医が出てきて、こういう細部の設定にキューブリックの監督としての力量が遺憾なく発揮されている。この心理テストは攻撃性の方向を確認するテストである。葛藤情況を示してその反応によって被験者の攻撃性が、自罰・他罰・中立の3つのカテゴリーのどこにあるかを判断する。アレックスの反応はいずれも他罰的なものだった。彼の攻撃性はまったく変わっていないのだ。ただ発露が封じ込められただけなのである。
それならば後半の「雨に歌えば」のシーンも納得する。彼の内部には以前として止みがたい暴力への傾斜が生きている。そこに政治的な情況が加わる。聡明なアレックスはそのことを十分理解している。人気挽回を図る政治家から肉を食べてさせてもらうアレックス。私はここに自分の立場を利用して政治屋にも君臨しようとするアレックスのしたたかな悪意を見た。あきらかにあごで政治屋を使って肉を口に運ばせているではないか。そしてオーディオセットのプレゼント。大音量の中でもカメラマンを前に笑って見せる。アレックスは自殺から復活したしたことによって、暴力抑制の機構がはずれたのではないだろうか。そんなことを思わせるラストである。
映画によって人間存在を探求するキューブリックの技量が衝撃的に示された秀作である。傑作と呼びにくいのは、やはり倫理的な解決を示して欲しいからだ。冒頭ベートーベンの第9の旋律にまじって、ベルリオーズの幻想交響曲の1節が挿入されている。断頭台への行進である。キューブリックはこの曲がお好みと見える。シャイニング冒頭、走行する車の俯瞰シーンでも使っていた。ここにシニカルな知識人の判断をかいま見ることができる。映像としてそこのところをきちんとしめして欲しかった。ともかく20世紀を代表する映画であることは間違いないと思われる。
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