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[コメント] セイ・エニシング(1989/米)

話は平板だが、いくつもの忘れ難いシーンがキラキラと散りばめられている。ジョンがハマり役…というより、この映画の青年は本当に今でもどこかで飄々と生きている気がする。
mize

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 大好きなシーンをあげたらキリがないし、ただ羅列しても野暮ってものだけど、本当に頭に残ってるんだからあえて書いてしまおう。

 彼女が彼に本気で惹かれ始めたきっかけがセリフで語られるが、それは前半で確かに観客も目にした場面だった。それはとても些細なしぐさ。路上のガラスの破片を彼女が踏まないように、ザッザッと足でどかしてあげただけ。伏線ですよと言わんばかりに、彼の足や彼女の表情をクローズアップするでもなく、本当にさりげない描写。だから彼女のセリフを聞いて「ああ、そういえばあったかもね。へぇ…あのとき惚れたんだ」とまるで友人のようにごく自然に感じた。

 そういえばこの映画は観客だけに特別な情報を提供したりしていない。きっと監督もこの2人の親しい友人の気持ちで撮ったからだろう。本来、監督(脚本家)は登場人物の運命を支配する者で、これから彼らに何が起こるかを知っているから、観客に「ここよく見といて、後で活きてくるよ」という撮り方をするものだけど、この監督はただ友人として見守り、2人の身に起こった事を優しく綴るだけなのだ。

 初々しい初体験のシーンやケンカ別れするシーン、そしてラジカセをかかげるあのシーンなど、本当にまだまだ書きたい場面はあるけど思い切ってとばして、終盤。

 刑務所にいる彼女の父親のもとに、娘を奪った憎き主人公が訪れる。憎まれ口をたたく父親だが、彼の携えた娘からの手紙に急に気弱になる。「“パパに失望しました”…全部こんな調子なのか?」「いえ、最後に“でもパパを愛してます”と書いてました」 慌てて最後のページを見る父親。でも書いてあるのは“さようなら”だけ。落ち込む父親に「…でもボクは確かに見ました。迷って捨ててしまったのかもしれないけど…でも確かに“愛してます”と書いた手紙を見たんです」

 もし手紙を読む場面で急に娘の朗読がダブって「パパを愛してます」と言ってもフーンとしか思わない。文字は届かなかったけど、確かに娘の手は一度は自分のことを愛してると書いたんだ…という父親の気持ちも感動的だけど、それよりも主人公の一生懸命で素朴な優しさがあらわれているから好きな場面だ。コイツは気休めのためだけに嘘はつかないよ、お父さん…と、いつの間にかすっかり主人公の親友になった気分で思った。

 この主人公がただの作られたキャラクターで、映画が終わった後はもうどこにも存在しないという気がどうもしない。今でもどこかで普通に生活してるような気がする。そういえばアイツ、何してるのかな? …なんて思ってしまうぐらい、監督とジョン・キューザックは主人公にリアルな魂を吹き込んでいる。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ナム太郎[*] カフカのすあま[*] makoto7774[*] mal ハム[*] くたー[*] ろびんますく

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