[コメント] テルマ&ルイーズ(1991/米)
悲しくも滑稽で、美しい飛翔感。アメリカン・ニュー・シネマへの良質なオマージュ。
社会的弱者の鬱屈と反抗、田舎から砂漠へと走り出す車、果てしないアメリカの大地。ニューシネマやロード・ムーヴィーが作り上げたそうした感性を、90年代のアメリカにおいて反復しようとする一つの試みとして見た。不自由な社会に理由もなく反抗する「男」たちの群像が意匠としては時代遅れのものになってしまった現在、鬱屈した個人の苦悩を大文字の社会へと繋げるためのアクチュアリティを獲得するためには、性や人種などにおけるマイノリティたちを主題化することが必要となる。この映画も、そうしたコンテクストを背景にして生まれた作品だと言うことができるだろう。そしてそうした作品たちの鑑賞を通じてわかってくるのは、「郊外」という空間の奇妙さだ。
この空間は無知と息詰まる閉塞感への苛立ちによる犯罪の温床ともなりうるという意味で、日本のニュータウンによく似ているのだが、それでも本作は、無知蒙昧で頑迷ですぐキレる暴力亭主とか、プレイボーイのコソ泥詐欺師とかいった、いかにもアメリカ郊外に生きていそうな人物たちや、弱者の悪人正機的犯罪に理解ある刑事といういかにもアメリカン・ニュー・シネマ的な人物に脇を固めさせつつ、郊外に生きる女性たちの苦悩と喜びを、悲しくも滑稽に、そして圧倒的な飛翔感をもって表現しえている。このすがすがしさはいったい何だろうか。
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