[コメント] がんばっていきまっしょい(1998/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『がんばっていきまっしょい』は青春卒業映画だ
この映画は何だか妙な映画である。映画の発端、「男子ボート部はあるが女子ボート部はない高校に進学した田中麗奈がボートを始める。」というところから物語の展開として予想されるのは、女子ボート部発足に伴うメンバー探しのエピソードであろう。ところが、この映画はこの部分をほとんど描かず、あっけなくメンバーは集まってしまうのである。そして試合がおこなわれるわけなのだが、ここで重要なのはいかにして負けるか、どのようなライバルが登場するか、ということだ。しかし、負け方はあっさりしているし、ライバルなんぞはまるで登場しない。その後、中島朋子演じる元日本チャンピオンの肩書きを持つコーチが登場するが、こいつがまたやる気のかけらもない女で物語と絡もうとしないのだ。田中麗奈が腰を痛めながらも影で練習するところなど、俺はいつ中島朋子が忽然と田中麗奈の前に現れ、「怪我をしてるときに無理してどうするんだ。この馬鹿ッ。」とかいうセリフとともに田中麗奈にビンタを張るのかと思っていたが、そんなシーンは存在しなかった。結局、ちょっとやる気のでた中嶋朋子のもとで特訓らしきものをした女子ボート部は、最後の大会で惜敗し、映画は終わる。
ようするに、この映画はスポ根的な展開というものを完全に排除している。そこらへんのアイドル映画のように話のつながりがわからないということはないが、いかにも平板である。映画は流れるように進み、その流れはあくまで一定で決して速くなったり遅くなったりはしない。最後の試合の前、「がんばっていきまっしょい」と掛け声をかけるのだが、そこに至るまでの展開に盛り上がりが欠けるため、こちらに何も響いてこないままに終わってしまっている。スポ根なら、一つ一つの大会の意味を明確にして展開にメリハリをつけるのだろうが、それもしない。
キャラクターもたっていない。せっかくそれぞれニックネームを持っているのに、その由来が説明されることはない(なんとなくわかるのもあるが)。クラスメイトの女の子に対しては田中麗奈はもっと無神経になるべきで、その上でその女の子の家を訪れて田中麗奈がはっとするとかいう場面を入れてもよかったのではないだろうか。真野きりなは最初、綾波レイ(@エヴァンゲリオン。いや、見たことないけどさ。)のようなやつかと思われるものの、屈託がなく、すぐ仲間内に溶け込んでしまう。まあ、「自分の殻に閉じこもっているけれど、周囲との触れ合いによって徐々に自分の感情を外に出すようになる」というキャラにもいいかげん飽きたけれど。
また、この映画には必要のない登場人物が2人存在する。1人は中嶋朋子であり、もう1人は田中麗奈の幼なじみ兼相手役(?)の男だ。スポーツものにコーチは欠かせないが、結局この映画の終着点は試合での惜敗(にしても、6校中3校が全国大会に行けるのだから、その中にぐらい入れてもよさそうなものだが)なのだから、コーチなぞいらないのだ。この女は東京で不倫でもして来たらしいが、そんなこともどうでもいい。男のほうも、なんだか中途半端な扱いである。田中麗奈とこの男は「友達以上恋人未満」(20年前の松山にこんな言葉はなさそうだが)というやつで、終始この関係が続く。それはいいのだが、「倒れたヒロインを相手役が保健室へ運ぶ」というお約束の場面があるにもかかわらず、実際の描写はなく、田中麗奈は他のボート部員からその事実を知らされるだけである。この2人に時間を割くくらいならば、女子ボート部員間のエピソードを増やして、彼女たちの結びつきを浮かび上がらせたほうがいいのではないだろうか。
と、ここまでこの映画をけなしてきたが、実を言えばそれなりに楽しんで観てしまった。カメラは早く動きすぎるし、キャラクターがたっていない一因にもなっているとはいえ、アイドル映画らしくなく、アップを多用しないのには好感が持てる。だいたい俺が言ったような話にするには漫画か小説がふさわしいだろう。何も起こらないのがこの映画の特徴なのだし、結局のところ青春なんて何も起きはしない季節なのだ。中島朋子や冒頭の20年後の場面がやや邪魔しようとしているものの、この映画には大人の視線が感じられず、ありのままの青春を描いているとも言える。大人の視線の欠如が、観る者に、自分がもはや青春というものにたち入れないということを自覚させるだろうが、それも仕方のないことなのだろう。青春からはいつか卒業しなければならないのだ。
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