[コメント] 明日に向って撃て!(1969/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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これを観たのは大学生の時。実は『スティング』の後で観たのだが、『スティング』とはまるで違う魅力に魅了された。
当時、私はレッドフォードのギラギラした魅力に惹かれていた。実は当時私は本当に内面的に荒れていた。そんな時に見たサンダンス=キッドの姿。拳銃使いが巧いと言う以外、自分が何者かさえも分からず、ただ苛ついているその姿。彼を満足させることは何もなく、ただ荒れる。その気持ちが自分だけが分かるような気がして、そう言う生き方をしたいと思った。いや、正確に言おう。ああ言う死に方をしたかった。ラストシーンに至るまでの彼の一貫した苛つき加減。そして充実しきって死に場所を見つけたあの美しさ。本当に惹かれた。
しかし、このレビューを書く際、当時の気持ちを思い出していたら、以前程レッドフォードが美しいと思えなかった。これは何も彼の輝きが減じたわけではない。それ以上の魅力を見つけただけの話。
実は今、これを思い返すと、むしろニューマンの魅力の方に惹かれている自分がいる。
この作品は友情の話だ。中にキッドとエッタの愛情めいた話も入れるが、あくまで主題はブッチ=キャシディとサンダンス=キッドの友情が主軸となっている。男二人と女一人の組み合わせは意外に映画には多いし、良作も多い。これは多分、男の一人が完全に引いた所に身を置いているからだろう。ただこの構成だと、恋愛の当人よりむしろ、もう一人の方が実は巧さを要する。単純に作ってしまうと三枚目になってしまうのだが、三枚目になりつつも、それを感じさせない、あるいは越えた役割を担うのは極めて難しい。役者だけではなく監督の力量も必要とされる。
それでブッチ役のニューマンだが、彼はキッドの身勝手さ、苛つきを全て鷹揚に受け止め、そしてなにかれとなく彼のために行動する。利害関係を超え、キッドという漢に惚れたサンダンスの姿こそ、本当の大人の姿だった。
勿論これはキッドの暴走を抑えるのではなく、容認してしまう事になってしまった。だから最後は一緒にああやって死んでいくしかなかったのだろう。だが、そこにはキッドと共に、確かに満足もあったはずだ。
当時身勝手なだけで、自分以外の何物も信じられず、更には自分さえ信じられない私は、レッドフォード演ずるキッドに惹かれた。だが様々な場所で人間関係を経た(そして現在継続中の)今、他者を愛することが、同時に自分を愛することにもなったニューマンのサンダンスこそ、本当に羨ましいと思う。
これを私が“成熟”というのか、それとも単純に“歳食った”と言うのかは判断できないが(恐らく後者だろう)、こういう風に思えるようになった自分は確かに変わったと思える。ああ言う人間になりたいと、今ではそう思う。
と、なんか柄じゃない話になっちゃったなあ。
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