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[コメント] 大阪物語(1999/日)

池脇千鶴映画と見せかけて、市川準的『エル・スール』な『大人帝国の逆襲
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







市川準は「割れたガラスは元に戻るのか」という命題を提示する。

つまり、壊れた人間関係が元に戻るのか?というわけである。それは若菜と彼の関係、両親や家族の関係で結論を得る。修復され一見上手くいくように見せかけて、決して元の形には収まらない。壊れたものが元の鞘に収まるなどという甘っちょろいハッピーエンドは存在しない、とても冷徹な物語だ。

だがその一方で、ちっとも冷徹な印象は残らない。 カメラは常に暖色系の色調を維持し、雨も雪も降らないびっくりするくらい晴天の連続。本当はあったような気もするが、夜のシーンすらあったかどうかほとんど記憶にない。少なくとも、池脇千鶴演じる若菜には晴天(と爽やかな風)がつきまとっている印象しかない。(だって普通、夜の道頓堀のグリコの看板とか撮るじゃん。『ブラックレイン』みたいに)

正直、市川準は上手いんだか下手なんだか分からなくなる時があるのだが、こういった点は非常に上手い監督だと思う。

つまり、天が神であるならば、若菜には常に神が微笑んでいるということではないのか。 そして、父が事故にあった瞬間、空は赤く染まった夕焼けになる(ただしこの直後に挿入されるのは若菜ではなく母の姿である)。

こう考えると、最初の命題「割れたガラス」も「創造のための破壊」ではないのか、と思いたくなる。そう考えると、父という人間を探る旅に出た若菜も、21世紀を語る若菜も、「破壊から創造へ」「過去から未来へ」旅し成長していく過程の姿ではないか、と考えてしまう。

んー、こう考えるといい映画のような気がする。いや、多分いい映画なのだ。だけど本当に上手いんだか下手なんだか分からなくなるんだ。

市川準ほど「おかず」の多い監督はいない。 本来フレームの外にあるべき台詞や音や風景を画面の中にやたら取り込む。それ自体は否定はしない。むしろそれによって、何気ない「日常」を切り取る手腕は凄いものがあるとも思う(一家四人が並んで布団に入るシーンのなんと温かいことか)。ただ『東京兄弟』『東京夜曲』と本作(私は市川準土着3部作と呼んでいるのだが)は、どうも「おかず」が気になっていけない。なんだかやたら過剰な気がする。

もしかすると、他に『ざわざわ下北沢』『東京マリーゴールド』なんてのもあるから、監督の中で“土着性”というのは重要なキーワードなのかもしれない(特に『東京夜曲』と『ざわざわ下北沢』は自ら原作を書いている)。それも、従来の日本映画が描いてきた「地方の“土着性”」ではなく、現代日本の「都会の“土着性”」。そのこだわりを、私が勝手に“過剰”と感じているだけなのかもしれない。

いずれにせよ、良くも悪くも市川準映画。若い女優が輝いていることも含めて。 ていうかこれ、ミヤコ蝶々の映画だろ?

(評価:★3)

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