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[コメント] カサブランカ(1942/米)

「ぴあ」をよくチェックしていると、何年かに一回は劇場でかかる。ビデオで何度観ていても、それより格段に素晴らしい。劇場でぜひ。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この映画は、恋愛教における聖典の別バージョンだと言えます。

 最後に恋愛が成就して終わるハッピーエンドではないので、悲恋物とも、人生において恋愛よりも大切ななにかを描いた映画ともとれます。この映画においては、理念とか大義とか、そんなものです。

 だけれども、ここには恋愛が一人の男をいかに腑抜けにしてしまうかが描かれています。自分の中の恋愛感情に封印をし、ついでに情熱や正義感のような感情まで押し潰して、生き馬の目を抜く街で酒場経営者として成功した人物(リック=ハンフリー・ボガート)が、いかなる想いで昔の女に言い寄るのか想像してほしい。恋愛映画ではたいてい女が自尊心を失います(映画ってたいてい男が作るからね)。男が自尊心を失う映画ってだけで珍しい。

 もちろんこの映画では、主人公は恋を取り戻し、それによって自尊心も取り戻します(映画だからね!)。が、そのどちらにも(恋にも自尊心にも)溺れることなく、みんなのために最善を考えて、それを実行できる男なんて、かっこいいじゃない! これをかっこいいと言わずして、どんな男をかっこいいというのか教えてほしい。しかも彼にこれができたのは、カサブランカの想い出が心の宝石となり得たからでしょう。恋愛の力が成せる業として描かれているんです。ハッピーエンドの映画以上に恋愛というものを理想化していると言えるんです。そのうえ観客をきちんと現実に解放してやっている。いろんな意味でこの映画はよくできてますよ。

 確かに時代も感じます。恋愛が大きな力をもっていた頃の時代をね。いまの恋愛映画はほとんど一方的に恋愛を賛美するだけだから単調なんですよ(・・・嫌いじゃないんだけど)。基本的にどんな男でもどんな女でも、いつの時代でもいかなる環境でも恋愛できる、という恋愛平等主義、恋愛ユビキタス状態だから。お金と一緒で流通量が増えりゃ価値は下がるんです。お金の造幣局は財務省だけど、恋愛の造幣局には映画産業も大きくあずかっているから、責任が無いとは言えませんがね。

 でもこの映画のユガーテ(ドイツ政府発行の渡航証を盗んで射殺される。・・・盗んだ渡航証を酒場の経営者に預けたまま)やルノー署長(戦時下仏領モロッコの最高統治責任者)、ビクター・ラズロ(レジスタンスの伝説的指導者)らが、恋愛できる人物として描かれていると思いますか? ラズロは彼なりに精一杯イルザ(イングリッド・バーグマン)を想いますが、これは恋愛感情ではないとイルザに言われてしまっています。彼に恋愛はできないんですよ。昔は誰でも彼でも恋愛できてたわけじゃないんです。でも、映画の中の歌が言ってるでしょう、キスはキス、ため息はため息、時代が変わっても、根本的なことは変わらない、って・・・。

90/100(03/12/23review追記)

(評価:★5)

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