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[コメント] ロスト・ワールド ジュラシックパーク(1997/米)

みんなのT−REX=恐竜を、GODZILLA=怪獣扱いで私物化。
kiona

 スティーブン・スピルバーグは台頭した80年代にあって、70年代以前の特撮映画をまるっと過去に追いやったスターという扱いを世間から受けていて、技術の観点から言えばその通りだった側面はあるものの、世間の一元的な評価というのは往々にして派手な側面のみを持ち上げ、あとはミソもクソも下水に流してしまうところがある。彼が台無しにしてきたものというのも多いように思うのだ。

 この『ロスト・ワールド』、ラストの改悪で原作者のマイケル・クライトンと仲違いしたと聞いた。詳しい事情は知らないが、十中八九T−REXの扱いをめぐってだろう。何と言っても一恐竜風情が町に上陸してゴジラの真似事を始めてしまったのだから、原作者が看過できるはずもない。恐竜を何だと思っているのかという話で、前作では(遺伝子組み換えによる不純な代物ではあるものの、かろうじて)保たれていた恐竜のアイデンティティはこの二本目にして完全に消し飛んでしまった。とはいえスピルバーグはこの時すでに、次作のジョー・ジョンストンからバトンタッチを要求されていたにも関わらず、自ら続編の手綱を握ったというのだから、よほどそれがやりたかったのだろう。

 『A.I.』を観ても思うのだが、スピルバーグはとにかく人間が嫌いだ。人物描写が甘いと指摘する声をよく聞くが、少なくとも『A.I.』とこの『ロスト・ワールド』の苛つくばかりの登場人物たち、これらは彼の手落ちではなく、悪意の産物なのだと思える。シェイクスピア時代にクリストファー・マーロウという劇作家がいた。『エドワード二世』など、その作風はシェイクスピアと対極的で人間に対する憎悪に満ちていた。同じようにスピルバーグも都会的な人間模様を嫌悪し、引きこもるか、荒野に出るか、戦場に出なければ人を愛せないのではないか。彼の中にあるのは、母親への執着とユダヤ人としてのマイノリティー意識、それだけなのかもしれない。

 そんな彼が『GODZILLA』を撮ったらどうなっていただろう。人間嫌いが大都会に壮絶な破壊と混乱をもたらし、エメリッヒのような牧歌的なものとは対極的な、殺伐とした映画になったかもしれない。

 労働者の孤独から始まった『激突』、悪意が上手い具合に海洋冒険に昇華された『ジョーズ』、人間嫌いも子供の願望と夢に昇華された『E.T.』。ところが今や『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』を経て、巨匠の地位にある。この『ロスト・ワールド』や『A.I.』というのは、かつては控えめに作品に還元できていたそれをセルフ・コントロールしきれなくなって、醜悪に噴出させた代物と思える。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)荒馬大介[*] こしょく[*] ジョー・チップ パブロ[*] mize[*] けにろん[*] すやすや[*]

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