[コメント] 海の上のピアニスト(1998/伊)
実験的に人間として育てられた人造人間の出来損ないを見たような気がする。だが、ひどく幸運な出来損ないだ。エゴイストでナルシスト、廻りのことなんて知ったこっちゃない。ただ気の向くままに行動して皆に愛される。こんな存在が認められる時代は幸福だ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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彼は親を知らない、ゆえに友を愛しても異性を愛することには不器用だ。ピアノに関しては超絶的だが、生活には無頓着きわまりない。
彼をお山の大将と見て、その天狗鼻をへし折ってやろうと息巻く男もいた。だが結局裸足同然で逃げ出す破目になる。当然だろう、元祖ジャズ職人(?)とて生活の些事に自分の時間をさかざるを得ないのだ。ピアノを弾くことしかすることのない「出来損ない」にかなう筈もない。
そしてだからこそ、一目惚れした女性に自分の唯一のレコードをプレゼントしようとして彼は果たせなかった。何より自分の足で船を降り、実社会に出てゆくことができなかった。人間の足で歩ききれない場所を彼は歩けない。人間の定められた可能性のなかで、よりベストに近い道を目指すのは彼の得意とするところだが、自分の可能性を飛び越えたと見える目標には怖気づいてしまう。彼を人造人間と呼びたい所以はここにあるが、同時に愛すべき人間臭さでもあるのが皮肉なところだ。
最期は、彼は友に変わらぬ友情を示し、それでも通したい自分の意地…というか弱さに殉じた。彼を天才と見るかダメ人間と見るかはその人次第だ。しかし彼の人生を笑える人というのは並外れて強い人間なのだな、としみじみ思う。
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