[コメント] 座頭市物語(1962/日)
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これが勝新太郎の代表作といわれるのもなるほどと納得できる。
冒頭から、役人の妾をありがたく頂戴して喜ぶヤクザの醜さだけでなく、手をつけた女からは逃げ回る情けなさ、さらに出入りで勝つためならそこに住む人たちのことなどお構いなしに、「住宅街」を戦場にし、傍若無人に暴れまわるヤクザたち。
その醜さがあるからこそ、座頭市を鉄砲でしとめるような卑怯なことは許せないと、病をおして駆けつける平手造酒の心情がひきたつ。
細部にわたってよくゆきとどいた演出が光り、それがしっかりとした背骨になっているからこそ、釣り上げるだけ釣り上げてから金だけ受け取って、出入りからどう逃げ出そうか企む、「ようやるわ」と言いたくなる様な市こそが、実はまっとうな人間、ちょっと要領よくしたいだけの普通の人間だということが伝わってくる。
そして最後には、その金さえ叩きつけ、仕込み杖さえ手放してしまうのだ。これだけ魅力的な人間像はちょっとない。
天知茂演じる平手酒造も凄い。座ったところから居合いの素振りをするシーンなど、ぞくぞくした。
それに殺陣にしても出色。特に市と平手造酒との立ち合いのシーン。
居合い抜きで相手を倒す市にとっては、初太刀がすべてといっても過言ではない。相手が間合いに入るまで刀を抜かず手の内を見せない、そして見せたと同時に斬って倒す居合い抜きは接近戦で相手のかかってくる隙を突く技でもある。
だから初太刀でしくじって、刀を抜きあって相対すると、今度は相手は抜かれた刀にのみ意識を集中すればいいのだから、普通の斬りあいになってしまう。
市は平手とすれ違いざまに居合い抜きで斬りかかる。しかしそれをかわして平手は再び構える、その瞬間の市の驚愕の表情は生々しい。初太刀がすべての居合いをかわされて、さらに盲目というハンデを負っているにもかかわらず、今度は相当の遣い手である平手と、対等に斬り合わなくてはならない。
その不利を知っているからこそ、また己の初太刀の居合いに自信をもっているからこそ、それをかわされたことへの驚きと、恐怖が入り混じった表情で、一気に緊迫感を二倍、三倍にも高めた忘れがたいシーンだった。
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