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[コメント] バトル・ロワイアル(2000/日)

「ナゼ」人間は人間を殺めてはいけないのか?その答えは→
muffler&silencer[消音装置]

、「ナイ」。あくまでも括弧でくくられた、ナイ。

「神の視点」のこの命題に取り組むのは宗教や哲学の仕事であったが、どうやら宗教は他宗教との対立に多忙で、哲学は科学との蜜月に多忙で、両者とも放棄してしまったようだ。我々はどうやら置き去りにされてしまったらしい。だから、我々は科学にその使命を託した。やがて<生>は拡大され、同時に<死>も拡大された。なぜなら、科学のパースペクティヴは、「大いなるいのち(無量寿)」を、「生 vs 死」の二項対立をもって分断し、そこから、その仕事を始めねばならない運命にあるからだ。

映画をいわゆる「芸術」の範疇に収めるべきかどうか、さらなる疑問の解をとりあえず保留にして問うなら、ならば芸術は、その命題に取り組むべきか否や。宗教も哲学も、そして芸術も、メタフィジカルな「人智の言語」と捉えるならば、決して無視してはならない問題なのではないか。芸術だけが、我々に残された「最後の砦」ではないのか。

いや、宗教にも哲学にも、ましてや芸術にも、託すことができないなら、極めて貧弱なコトバを振りまわすしかなす術がない。それが、「シャベリバ」であり、「テリー伊藤」的大人である。

前置きが長くなったが、で、この『バトル・ロワイヤル』である。正直、どうでもいい。どうでもいい「バカヤロー加減」である。

冒頭の質問に、答える気もないのに答えるポーズをし、さらに醜悪なのは、答えていないのに、答えた気になっていることである。誤解を恐れずに言うならば、確かに、<娯楽=エンターテイメント>として、殺人を描くことは、「悪趣味」ではあるが、「反人間的」であるとまで言うつもりはない。「まっ、いいんじゃない」だ。こんな映画程度のヴァイオレンスは、これまでにも掃いて捨てるほど創られたし、そのうちのいくつかは、僕も「楽しみ」もしたし、支持もする。

だが、ここで忘れてならないのは、この映画の「設定」と「対象」だ。

「中学生」である。「ヤクザ」や「ギャング」や「異常者」とはワケが違う。冒頭の「神の視点」の疑問に全身全霊ぶつかる瞬間である。北野武は、この映画がR-15指定になったことを受けて、「この映画をイチバン見なければならない人たちが見られない」と嘆いたが、心配なさるな、彼らはどうにかして見るだろう。自分たちを対象にした物語ならば、きっと興味を持つはずだ。ましてや、その「瞬間」の中学生なのだ。だから、曲りなりにも彼らに向かって刀を抜いたのなら、そこに必ず「責任=レスポンスビリティー(応答責任)」が生じるのだ。

「なのに、殺し合わせて、何をわかれと?」と野暮なツッコミはとりあえずしないでおく。しかし、深作や北野は、彼らの、その全身全霊のブツカリとトビコミに応えうるだけの懐の深さと技量を持ち合わせているのだろうか?実に疑わしい。

…あのなあ…

ただ単に「殺し」を撮りたかったんだろ、深作?ただ単に、常日頃、オヤヂ狩りや学級崩壊など彼らの傍若無人な様に怯え、「クサイ」「ウザイ」「キモイ」とバカにするクソガキどもをサクサク殺せたらなんていう、切なくヒネたオトナの「白昼夢=ファンタジー」を映像化(言語化)したかっただけなんだろ?―そして、我々はそれを見たかったのか?―

その行為は、「核ミサイルスイッチ、ぽちットナ」に通ずるものなんだぞ。それをやっちゃ、もう後戻りできないんだぞ。あっ、もうやっちゃったのか…

なら、「チャント」やれよ。中途半端で軽薄な感傷を羅列しちまって、これじゃあ、まんま「お遊戯」じゃないか。『ぼくらの七日間戦争』と大差ないじゃないか。引き合いに出すのも気がひけるが、あのウィリアム・ゴールドウィンの『蝿の王』の「パロディー」にも及ばない。深作や原作者に、『蝿の王』ほどに「過程」を描く力量はなかろうから、それを求めるのは酷だとしても、だ。さらに言うなら、本当に「命」について真剣に語り合いたかったのならば、容赦なくリアリティーを追及し、原作をとことん破壊・脱構築するべきじゃなかったのか?

もう一度言おう。刀を抜いたのなら、スパリ切れ。切れないのなら、せめて、ちゃんと鞘に収めなおせ。なおかつ、見物人の俺たちはいいが、中学生に、なぜ切れなかったのか、ちゃんと説明せよ。それが「責任」ではないのか?

まあ、それができなかったから、「衛星か?テポドンか?」騒動程度で済んだし、まだ<後戻り>できる余地が残ったという点で、皮肉をこめての3点なのだが。「サイマフ検査済み」「安全宣言」の3点なんだぞ。

殺人は誰にでもできる。

だが、エンターテイメントのためであれ、啓蒙のためであれ、何らかの意図を持って、<殺人を描く>ことは、誰にでもできる芸当ではない。果たして、数十年それでメシを食ってきた深作に、まだその資格はあるのだろうか。

「何故人間は人間を殺めてはいけないのですかー?」「じゃっかしい!あかんもんはあかんのじゃ、バカヤロー!」―せめて、怒鳴るくらいの気概と気迫は持ってくれよ。「置き去り」にされた我々も、今は、その気概を持つべきではないか?ニタニタ笑って、

以下、ネタバレ

「心中しよ」じゃないだろ。白抜きで「走れ!」じゃないだろ。先に走るのは、お前と俺たちだろ、バカヤロ。

(評価:★3)

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