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[コメント] リリイ・シュシュのすべて(2001/日)

確かに、作品中で描かれるのは極端な世界だ。しかし、ちょっとしたきっかけ、ほんの僅かなすれ違いによって現実が極端な世界に変貌してしまう。この事実こそが、この年代の本質なのだろうと思う。
パグのしっぽ

この映画が公開された2001年、ぼくは高校生だった。ドンピシャとはいかないけれど、自分はこの作品中の世界とかなり近い時代に中学生生活を送ったと言える。

自分の中学生時代を思い返してみると、売春をしていた同級生もレイプをしていた同級生も強盗した金で沖縄旅行に行った同級生もライブ会場で人を刺し殺した同級生もいない(僕の知っている限りでは、だけど)。しかし、そんなことが起こりかねない空気は確実に存在した。同級生から金をせびっている友人もいたし、セクシャルな噂の絶えない女の子もいたし、通学路にはたくさんのタバコの吸殻が落ちていた。そしてその数本は僕が吸い捨てたものだ。

大きな事件も起こらずに、いや、僕の周りで大きな事件が起こらなかったのは、今思えばとんでもない幸運だった。何かのきっかけがあれば、何かの事件が起きていた。その「何かの事件」とは、歳をとった今となっては大事件だが、当時の僕らの感覚から言えば、日常の延長線上のものでしかなかった。日常と非日常、誠意と悪意、大勢と少数、正しさと間違い…歳をとった僕らには相反するように感じる2つの概念、それらが分岐するのが中学生なのだと思う。紙一重の差、なんてものではない。そこに差なんて無い。それくらい、緊迫した危うさ。

繰り返すが、作品中に描かれているのは極端な世界だ。ここまでキツイ環境は無いのかもしれない。しかし、現実と物語を分ける差が極めて微細なものである以上、この物語はノンフィクションだ。現実と物語を分ける「きっかけ」の微妙さ、それを僕らに痛いまでに感じさせてくれるこの作品は、単なる映画を超えている。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Santa Monica けにろん[*] 浅草12階の幽霊 ぽんしゅう[*] 緑雨[*] ミレイ

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