[コメント] 耳に残るは君の歌声(2000/英=仏)
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私は、あまりクラシックやオペラに興味がなかった。聞けばすごいなと思うものの、進んで聞こうとまでは思わなかった。ところが、この映画を見ている間ずっと胸は高まり、五感が開ききったかのような感覚に襲われた。
人の声がここまで響くのかと、この新しい感覚に驚いてしまった。
それに加え、ジプシー・ミュージック。陽気なのに物悲しい、そんな音楽がとても素晴らしく、また夜のロンドンの寂しげな情景とマッチしてなんとも言えない気分に浸れた。
この映画は、ロシア時代が一番素晴らしいと思った。枯れた草木をかき分け少女と優しい父の鬼ごっこ。そしてクローディア・ランダー・デュークの可愛い事といったら!!!!
子役に台詞をしゃべらせず、泣かせなかった演出に好感を持った。わざとらしい演出をするより、無表情さに哀しみが漂っていた。本当に哀しい少女は、哀しい顔をしないような気がする。喜怒哀楽といった感情が欠落した少女像だったので、余計に哀しさが増して見える。
それに、脇が最高に良かった。
まず、ジョン・タトゥーロ。身勝手な成り上がり者。「声」を武器に虚栄を張っているものの、人間的に器が大きくないので、常に何かの恐怖に脅えている。そんな小者は、金にも権力にも屈せず「自分」を持っている人間を必要以上に嫌う。それが、ジプシーであり、スーザンであった。そういった人間の前に出ると、自分が馬鹿にされているように思われるから。
そしてケイト・ブランシェット。お金が自分を幸福にしてくれると思っている女。けれど、心の底ではそれが幸せでない事を知っている。恋の駆け引き上手を演じながら、実は本当の意味での恋愛音痴。
彼らの人物像を充分に物語っているエピソード(キスの合間に倒れた小物を直すダンテ。自ら決めた約束を破る時怒り出すローラ。等など)が素晴らしく、少ない台詞で情景を伝える映像はとても良かった。
けれど、アメリカに渡った時点で映画の質がぐっと悪くなった。病院や撮影所が新しく見え、とても1930年代に見えない。それまでが良かっただけに尻切れトンボ、タイムスリップ感が残る。そして、冒頭の溺れるシーンがあまりにもあっさりとスルーされてしまったので、肩透かしを食った気がした。あの演出なら、あと30分長くても良かったので、もっと盛り上げて欲しかった。
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