[コメント] ピンポン(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ラストのペコとスマイルの真剣勝負のシーン。このドラマのクライマックスとなるこのシーンで、ひとつ重大なポイントが欠落している。
このドラマは、スマイルとペコの関係が成熟していく物語である。常にペコ(=ヒーロー)に従属する子どもだったスマイル、自らペコの影になることを望んで生きてきた男が、周囲の人間たちによって否応なくヒーロー以上の才能を露見させられてしまい、やがてその才能を受け入れた上で、かつてのヒーローとの新しい関係を築いていこうとする物語なのだ。
自分に才能があることを認めたスマイルが、師匠バタフライ・ジョーの過去に耳を傾けるシーンがある。ジョーはかつて、ヒザを痛めた親友に負けたことがあった。それに対しスマイルは、ジョーをこう切り捨てる。
「……わからないなぁ。フォアに深く打ってバックに返せば勝てる相手ですよね……」
だが、ジョーはそのショットが打てなかった。相手の選手生命を奪うかもしれない打球を打てなかった。
「君なら打てたかね……?」
そう尋ねられ、スマイルも黙りこくってしまう。
やがてスマイルは、同じようにヒザを壊したペコと対峙することになる。県大会の決勝に勝ち残ったふたりにとって、その時点でインターハイへの出場は確定していた。勝敗に意味はなかった。ペコは棄権してもよかったのだ。いや、全国制覇を達成し「この星の一等賞になる」のが目標のペコにとっては、棄権して治療に専念しなければならない試合だった。
だが、ペコは出場してきた。なぜならペコはヒーローであり、誰よりも「スマイルのヒーローである(あるいは、かつてそうであった)」ことに責任を感じていたからだ。試合前、スマイルは心配そうなジョーに対し、「ボクはあなたとは違いますから」と言い残して試合に臨む。
そしてスマイルは、その言葉通りの試合を見せる。それがヒーローに対する礼儀だからだ。
最後の試合で、確かにスマイルはヒザを壊したペコの「フォアに深く打ってバックに返して」いる。手負いのペコを全力で潰しにいっているのだ。このショットこそが、『ピンポン』という物語のクライマックスなのだ。ペコは、そんなスマイルの殺人ショットを嬉々として打ち返して見せる。このシーンで初めて、卓球を通してスマイルとペコの新しい関係が成立するのである。
このキモが、作中まったく描けていない。原作を読んでなかったら「あー楽しそうに試合してますね」で終わってしまうのではないだろうか。ドラゴンやチャイナのエピソードがしっかり描けていただけに、残念なシーンだった。
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