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[コメント] ウインドトーカーズ(2002/米)

男たちの挽歌』的活劇が、青天白日の元に解き放たれた痛快なアクション。天然光の下で繰り広げられるジョン・ウーの演出は、強烈な引力を持っている。しかし、戦争映画としては、構造や題材がなんとも曖昧で中途半端なのが残念。
かける

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戦争映画である以上、香港ノワールのような荒唐無稽さをたっぷり盛り込むことは難しい。しかし、ガンアクションや白兵戦の格闘に、ジョン・ウー的世界のケレン味は鋭いキレを見せる。

しかし、最近のアメリカ映画が、彼等の戦争を題材にした時に見せる強引な構成や演出は、この映画にはさほど見られない。というか、見せようがなかった、のかもしれない。 これは、ネイティブ・アメリカンの存在が作品の中心を担っていることで歴史・政治認識に極端な偏向を持たせづらくなってしまったからかもしれないし、また、ジョン・ウーが東洋人であるということも、あるいは影響しているかもしれない。

そういった状況をつきあわせた結果、選ばれたのがサイパン上陸作戦だった、という「妥協」もあったのではないだろうか。 サイパンでの日米戦は、事実上日本軍の撤退戦であり、戦闘そのものでヒーローが活躍するわけではないこの作品にとっては、扱いやすい題材だったとも言える。

そして、『シン・レッド・ライン』のガダルカナルのように、凄惨な戦いを見せる場所として選ばれたわけではなく、かつ、ナバホ族通信手が一番活躍されたと言われている硫黄島を題材にしたわけでもない。 特に後者の場合は、アメリカ軍の大きな犠牲に触れないわけにはいかず、戦争そのものを中心の題材にしていないこの作品では持て余してしまう部分もあったことだろう。

サイパンの戦況は、あくまでもアメリカの一方的な攻勢に終始する。かといって、日本軍は特に悪し様な描写をされているわけではない。直接戦闘で米軍にも応分の死者が出る描写もある。 となると、『パールハーバー』的戦争映画としてはどこか筆が止まっているということにもなるだろうし、アメリカ人が戦争映画に期待するもの……とりわけ「大平洋戦争」のそれに期待するカタルシスは大幅に減じられる結果になったことだろう。

そもそも、「まさか命令を遵守してオシマイ、ではないだろう」という予想を、持たれてしまった時点で、この映画は袋小路に入ってしまっている。 結果的に。戦争アクションとしてのノリが不足しがちなことと相まって、膨らみや広がりといったものに大きく欠けることになってしまった。

結果、戦争映画としては中途半端な構造と、カタルシスが消化不良になってしまった印象は否定できない。アメリカ人にとってのカタルシスの寸止めの度合いは、我々のものよりも、より大きくなったことだろう。

ジョン・ウーの世界が、まさに白昼堂々と展開されたことには拍手! しかし、宙ぶらりんなクライマックスを迎えるしかない題材だったことが残念。 天然光の下のジョン・ウー世界を、もっと違う題材で見たかった、という思いが強くなった。

(評価:★3)

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