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[コメント] 春の日は過ぎゆく(2001/韓国=日=香港)

背景音の微細な変化。(レビューはラストに言及)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







さる事情で、映画の背景音を録音する作業にかかわったことがある。DATとマイクをもって、部屋の中の音や外の音、夜の音などをひたすら録り続けるという地味極まりない作業で、疲れ果てたすえに整音スタジオに音素材をもっていった。スタジオでは録音技師の人がいて、私の撮った音を聞いて、これは車の音が聞こえるとか、ここで君動いちゃったねなどと、とても微細な音に気づいてNGを出すところを見て、ああやはりプロの聴覚はすごいなあと(私が音に鈍感すぎるのかもしれないが)感嘆した。

そんな経験があったから、録音技師というと感覚が研ぎ澄まされている人というイメージ(=勝手な先入観)があったので、主人公の彼が彼女の心境の変化にも気づけないほど鈍感な人という描写には違和感があった。

ただ最後まで話を追っていくと、彼の感覚が研ぎ澄まされていく過程を映しだした話だったのかと思い直す。彼は、ただ音の良し悪しを聞きとるだけではなく、音の中に潜む微細な歴史性や感情などを感じとっていくようになった。最後のほうで、彼女の鼻歌の混じった川辺の音を聞いていたのは、もはや彼女への未練ではなく、彼女との想い出を周りの背景音のなかに昇華できたことを意味するのだろう。すがすがしい終わり方だった。

なんてことを思いながら、そういえばあの録音技師の方も感覚は研ぎ澄まされてはいそうだったが、恋愛に関しては不器用そうだったなあ(失礼?)と思い出す。やはりそれとこれを一緒にしてはいけないのだろう。でも、個人的には背景音を感じとっていく録音技師が、主音を感じる音楽評論家(彼女を魅惑したグラサン男の職業)に負けてほしくないな、と勝手に肩入れしたい。

*なぜ、つきあいだしてからも彼らは「さん」づけで呼び合っていたのだろうか?向こうの言葉にそういうニュアンスがあるのか?

(評価:★3)

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