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[コメント] たそがれ清兵衛(2002/日)

多くのサラリーマンは,ちょっと勘違いしてるんじゃないか?
ワトニイ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この作品を観て,内容以前に考えてしまったこと…。

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マスコミによると,世の中不景気で日本全体に活気がない時に「この映画を観て元気づけられた」という中年男性が多かったそうだ。中年サラリーマンの多くは,”しがない下級武士”である清兵衛を自分に重ね合わせ,元気づけられたとか。

だが,それはちょっと違うんじゃないか? 清兵衛は,”しがない下級武士”などではない。目立たないけれど剣の腕はかなりのものだし,自分の信念をしっかりと持ち,愚直なほどに誠実・謙虚で清廉潔白であり,最後までそれを貫いたひとかどの人物だと思う。生まれ育ちも含めた巡り合わせ(運)が悪かったために苦労ばかりが続き,世間的な”成功”という価値観から見れば,目立たなかっただけではないだろうか? 世の中には,そうした運に恵まれなかった人もいる。清兵衛とは,そういう一人だったのだろう。

だから,この『たそがれ清兵衛』にしても,同じように話題になったNHKの「プロジェクトX」にしても,”ごく平凡なサラリーマン”への応援歌などではなく,”目立たないけど,人知れず努力して頑張っている人たち”への応援歌なんじゃないかと思う。

映画をどう観るかは人それぞれの自由だし,それで元気づけられるのなら幸せなことだが,連日,居酒屋で管を巻いて上司への不満や愚痴を繰り返し,大して努力もしていないようなサラリーマンが,この作品を観て勇気を出す…というのは,ちょっと違うんじゃないかという気がする。厳しいことを言うようだけど…。まあ,そんなサラリーマンが実際にどれほどいたか知らないけど,少なくとも,この作品をそういう風に捉えていたマスコミの論調は間違っていると思う。

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以上,映画の内容とは関係のないことを長々書いてしまったが…。

確かに,しみじみとした良い映画だと思った。ただ私は,山田洋次監督作品は『男はつらいよ』シリーズから入ったせいか,寅さんシリーズや『幸福の黄色いハンカチ』に満ちている庶民の目線から見た持ち前のユーモア,すなわち,大いに笑わせてくれるんだけど,同時にちょっとホロッとさせるような庶民の機微や悲哀を描くという面こそ,山田監督の持ち味だと思う。この作品でも庶民である清兵衛を描きながら,その辺があまり出ていなかったのが,少し物足りなかった。もちろん藤沢修平の原作のイメージを踏まえ清兵衛という人物を描くのに,寅さんと同じじゃ具合が悪いのは百も承知だけれど…。

だから,この作品は,出来の善し悪し以前に,私の好きな山田洋次らしさがもう一つ出ていなかったように思う。映画としてはなかなか良い出来だと思うが,山田監督の作品としては,彼特有のユーモアが殆ど見られなかったのが残念だ。

(評価:★3)

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