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[コメント] ドニー・ダーコ(2001/米)

プロザック・ネイションの 1988 年回顧録。少年と鉄色のウサギの白昼夢は趣味よくユーモラス。しかし前時代的な物語テクで失速。この監督のハッタリ能力には今後に期待。
カフカのすあま

ドリュー・バリモアはやる気マンマン。やる気がこちらにも伝わってきて、うまく乗せてもらえました(「F〜ck」はすべってましたが)。「いかにも」な音楽の使い方とか、そらぞらしいほど「清く正しく」「あるべき」アメリカの「サバービアン」な撮り方はうまいと思いました。

というわけで、中盤までの学園モノ・スタイルは、ヘンな大人たちをおおいに笑い飛ばしながら、スキゾフレニアを『アメリ』していてかなりノリがよかった。ダーコ少年も、その彼女も、パパもママも姉も妹も、どことなく世間とズレているところが魅力的。そのまま疾走すればかなりイケたはずなのに……。まとめの手法が古すぎ。

(注:「アメリ」におけるメタファの映像化は、「ドニー・ダーコ」ではスキゾ心象風景の映像化となる。メタファが使えないアメリカだからこそ、そこのところは「精神分析」でぐいぐい責めて欲しかったが、「びよ〜ん」っていうアレはちょっとアレすぎないか? (どうせやるなら『カリガリ博士』とか『反撥』を参照すべき)

古すぎる手法とは、「28日と6時間何分何十何秒後」なんていう「思わせぶり」なゴールの設定。これはいただけなかった。だって、それまで観る者をひきつけていたのは、やはり主人公ダーコ少年の、まっとうなアンチソーシャル・ビヘイビア(反社会的行為) ―ワケのわからない正義を押し付けてくる世間へのごくごく健全かつ当然でアッパレな抵抗― と、スキゾ的妄想大回転(程よいキ○ガイ感覚)であって、世界の終わりへのドキドキ感ではなかったのだから。

設定の 1988 年は、リンチの『ツインピークス』が爆発的に流行した頃。この時代には、まだ「恐怖か愛か」的な二元論が「クリアな答を求める人」の間に成立していたし、「謎解き」も「たったひとつの解答」を求める人々の間に大流行した。それは認めよう(リンチ自身はそのずっと先を行っていたわけで、「謎解き」じたいはTPのテーマではなかったと私は信じている。あれは商業的テク)。

しかし、21世紀の今、もの語る話に「秒読みカウントダウン+謎解き」を使われては白けまくり。あまりにも、悲しいほどに前時代的だ(というか、アメリカ、とくにハリウッドは残念ながらこの前時代にいるわけだが…)。このため、好調だったテンポは中盤以降見事に失速し、「なんとなくいい感じ」のいわゆる「ちょっとだけキショい」オモシロ映画に成り下がってしまった。もったいない。

トレーラーから漂ってくる雰囲気が「大物」していて、とても期待していただけに、失望感が大きかった。すっごく楽しみにしてたのにな。しゅん。

(評価:★3)

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