[コメント] ティアーズ・オブ・ザ・サン(2003/米)
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ジャングルの行軍にはそれなりの説得力があった。
ただ、初志が貫徹されたとは言い難い。脚本段階で後付けしたとしか思えない“隠れキャラ”のエピソード。リーナ(ベルッチ)が知っていたとすれば、そんな重要人物のこと、最初に自分だけ連れて行かれ元も子もなくなりそうになった段階で、ウォーターズ(ウィリス)にばらしてしまうのが人情ではないだろうか?
ばらしたとしてアメリカが彼をどう処理したかはわからないが、取り残して殺されるのを待つよりましだ。というより、彼女は諜報員でも何でもなく、ただの女医だったはずだ。そもそも、彼女のイノセンスこそがウォーターズの心を動かしたのではなかったか? だからこそ彼女の隠蔽工作が発覚した時点で観客は物語と彼女のキャラに対する戸惑いを禁じえないし、彼女に対しあまりに寛大なウォーターズや彼に対しあまりに寛大な隊員達にヌルさを感じずにはいられない。
あるいは、命令の遵守と秤にかけられていたのは「名もなき難民たち」だったはずで、これはテーマの核であり、動かしがたいルールだったはずだ。「名のあるキャラ」が出てきてしまっては、ウォーターズの命令違反が物語の中でお墨付きを与えられるかわりに物語の中に閉じられ、問題がなし崩しにされかねない。くわえて、ウォーターズがあの人物を鼓舞するくだりなどは、まったく別の、というよりはいつものブルース・ウィリスの娯楽映画に変貌してしまったようで残念だった。
そうかといって、あの人物がいなければ話が転がらなかったところが、この脚本最大の弱点だ。彼がいたからこそ、敵軍により教会は狙われたのだし、執拗な尾行もされたのだ。だが、一方で、それは敵軍の造形の放棄でもある。イスラム勢力による残虐行為を事実に照らし合わせて描くつもりなら、王族云々を持ち出さず、名もなき血を根絶やしにするために執拗に追いかけてくるという設定とし、彼らがキリスト教徒を迫害しようとするモチーフに関して少しでも触れるべきではなかったか? そうして、かの地の民族間や宗教間に横たわる棘だらけの暗闇に無造作に手を突っ込むことの無謀、それでも手を拱いているだけでは身悶えせずにいられない痛恨を謳うまで行って欲しかった――というのは無理な相談か。
いや、正直に言えば、戦場のスペクタクル・シーンやそこに展開されるお涙頂戴のドラマを見たくて映画館に入るというのが自分の本音だ。その観点からは、この映画はよくできている類かもしれない。あるいは、クライマックスの戦闘が明らかな「敗走」であるあたり、アメリカ人の価値観も少しずつ変わってきているのかもしれない。
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