[コメント] 青の炎(2003/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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青春ミステリ、キャッチコピーが「これほど切ない殺人者がかつていただろうか」と来て、監督は純然たるアイドル映画を撮りたかったと聞くと、よくある勘違い映画になりそうな感じがしたが、それを、いい意味で裏切ってくれた。
それでも最初は正直言って時代錯誤な印象であった。台詞回しが野暮ったく、少年の実行に至るまでの過程ももうひとつ不十分ではあった。
だがそれを凌駕してしまう、映像の持つ雰囲気に飲まれてしまう。青の炎、それは勢いよく燃えて燃えて最後に燃え尽きてしまうような潔いものではない。燻り続け、自己完結の自己満足に行き着く。
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多くの愛に囲まれた普通の少年は、愛する人を守るために罪を犯した。それは全くの早とちりだった。気づいたときはもう遅く、彼はその犯罪を隠蔽するためにもうひとつの殺人を犯してしまった。そこには最早、愛する人を守るという言い訳は通じない。助かりたい、そう思ったときから、彼の手は血に塗れている。洗い流しても落ちやしない。それを、若さゆえの過ちといってしまうにはあまりにも残酷すぎる。
別れの朝、そこにはいつも通り仲のいい親子と兄妹の姿があった。しかし、われわれ観客は少年の覚悟を知っている。言いたいことを押し殺して普段どおりに振舞う姿にはジーンと来た。一方で、女友達には自首を仄めかす。二人の友達以上恋人未満なプラトニックな関係も、むしろ本当に互いが互いを必要としている点を強調しているようで、極めて効果的だ。
では、ラストの主人公の行動をどう捉えればいいのか。彼の若さから来る独りよがりな行動であると考えると、二度目の殺人を犯したあとで刑事に詰め寄られるシーン以降、少年がやけに落ち着き払っていたのも納得できる。刑事の鋭さに観念して、あの時点でラストシーンの行動を取ることを決めていたのだろう。優柔不断なくせに思い込みが激しく頑固である、そんなアンビバレントな感情は、一人の人間の中に、自然と共存する。
ただ、これはむしろ、“きれいなものはきれいなまま散る方が美しい”と作り手が捉えたと考えるほうが自然ではないだろうか。映画を完結させる手段として死を選択することはありだと思うが、やはり唐突感は否めず、作り手までも自己完結で自己満足してしまったようだ。
とまあ不満もそこかしこに感じられるのだが、それでも魅力のたくさん詰まった映画だった。
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この映画は、つまり青春映画をアイドルを使って徹底的にアイドル映画を目指したその信念が、僕らが普通に思い描くチャラチャラしたアイドル映画の枠を飛び越えたのだろうか。アイドルが出るだけの映画(例に出して申し訳ないが、僕には『ピンチランナー』がすぐに思い浮かんだ)と、アイドル映画は違うぞと言わんばかりに。だとすると、これぞ真のアイドル映画なのかもしれない。
最後に、普段「あやや」として今では最早珍しいくらいに正統派アイドルとしてオーラビンビンに発している松浦亜弥が、その非日常性を脱ぎさって、一人の等身大を演じていた。その演技力は置くにしても、「何をやっても一緒」では無い分、(贔屓目はあるにしろ)表現者として及第点をあげたい。
そんな松浦亜弥の最後の表情は切なかったなあ。「あやや」目当てで観て得した気分だった。
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