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[コメント] まぼろし(2001/仏)

時間
芋虫

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画。少ない会話・ショットで円熟期をむかえた夫婦・最愛の人の死を受け入れていく喪の作業を描いてるの。物語の冒頭。2ショットめってのがバカンスに向かう車中なのね。妻が運転していて夫は助手席で眠ってる。妻は夫を横目でみてニッコリってのを車のフロントから撮ってるの。反対に3ショットめは旦那が運転して妻が助手席で休んでるのをバックから撮っていて。この2ショットだけで時間経過(単純に運転してる時間・夫婦が共有してきた長い時間云々)と夫婦の円熟な関係を巧みに描いているの。冒頭でこんなに簡潔・明快に作品の筋を描かれて思わずやられたーって!その後も終始二人の間に交わされる言葉は数少なめで必要最小限なんだけれど。言葉っていうのが人間関係をつなぎ合わせる道具だとすれば、つなぎ合わせの最終局面にある二人にとって言葉はほどんどいらないんだろうか。 同じ言葉でいうとマリーが愛人ヴァンサンとセックスするシーン。「あなたには重みが足りないの」と言う台詞には思わず衝撃が走っちゃったわ。この言葉は前半後半と二回言っていて。はじめこそこの人体重が軽いって意味合いだったけど。二回目は明らかに存在としての重みだったの。これを言われた相手の男の人としてはショックでしょう。思ったんだけど恋のはじまりは男女のかけひきが絡んできて、いい歳の大人でも幼く見えてくるから面白いの。それがまた冒頭の夫婦の円熟な関係との対比で思わず観ててにんまりとしてきてしまって。 マリーがベッドに倒れこんで夫と愛人の手がその体にまとわりついてくるって幻想シーンや愛人とのセックス中に夫のまぼろしがあらわれるって所なんかもマリーの喪失感を描いてるんだけど湿っぽくなくってただただ美しいと感じますた。 この映画。原題は「砂の下」とか言うらしいけど。これ聞くと何だか砂時計を想像するの。砂が少しずつ刻々と落ちていく儚さ。人生の時間・夫と過ごした時間・夫を失った時間。時間ていう概念にこだわった作品だけに最後の長回しは映画の最後だという儚さとあいまって胸に熱いものがきたのでしたよ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)chokobo[*] リア ゑぎ[*] makoto7774[*] ボイス母[*]

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