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[コメント] セックスと嘘とビデオテープ(1989/米)

人間が、ソトヅラを取り繕うためだけでなく、自分を自分で誤魔化すためにも嘘をつく存在であることを描いている。
G31

比較的メッセージ色の強い作品で、映画としての技術の巧拙というよりは、その発するメッセージにおいて印象に残る作品である。

主要な登場人物は、夫と妻、妻の妹と夫の友人、の4人のみ。夫は映画の中での典型的な悪役キャラ、つまり、内面を持たない外面(ソトヅラ)だけの存在として描かれる。妻は、外面を取り繕うことへのこだわりは持ちつつも、きちんと自省する内面を持った存在。妻の妹は、複雑な内面を持つことを垣間見せながらも、映画の中では脇役、つまり重要ではあるが表面的な存在として描かれている。ある意味最も映画的で、特に若い映画ファンにとっては自己と重ね合わせる部分の大きいだろうと思わせるのが、夫の友人・グレアムで、彼はほとんどソトヅラというものを持たない内面だけの存在である。

この映画は、人間がソトヅラを取り繕うためだけでなく、自分を自分で誤魔化すためにも嘘をつく存在であることを描き、前者についての善悪の判断はともかく、せめて後者みたいなことはなるべく止めようじゃないか、と主張している。

19、20才で初めてこの映画を観た頃は、アン(アンディ・マクダウェル)とグレアム(ジェームス・スペイダー)の、知識のぶつけ合いでもない、幼稚な感想の述べ合いでもない、人の内面に踏み込む会話に対しポーっとなって、憧れにも似た感動を覚えたものだった。だが年を経るにつれ、ジョン(ピーター・ギャラガー)のキャラクターが意外に丁寧に描かれていることに気づき、鼻持ちならない嘘つき野郎であるジョンの言動にむしろ共感を覚えるようになった。

その意味で、これは受ける年齢層が限定された作品であると言える。これにパルムドールを与えたカンヌの審査員は、実にみずみずしい感性の持ち主たちだと思う次第だ。

少なくとも、現実の社会にグレアムみたいな奴がいたら、十中八九性的倒錯者に間違いないわけで、彼を変態と決めつけ、厳重に対処せんとするジョンの行動は、むしろ大人のとる行動としては好ましいものだ(だから、現実の話だったら、ね)。付け加えて言うなら、グレアムの性癖は、嘘をつき過ぎたが為の一時的な病気みたいなものではなく、彼の嗜好であるのだから、アンとの関係が落ちついたあとでも、たぶん止むことはないであろう。

この作品以降、内面を持たない”ソトヅラ・キャラクター”がすっかり定着してしまったピーター・ギャラガーに同情する。

75/100(03/05/01再見...何度目かの)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)irodori IN4MATION Madoka[*] sawa:38[*] ina uyo[*]

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