コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] トレーニング・デイ(2001/米)

いっそ荒唐無稽にしてくれたほうが単純に楽しめたが、変にリアリティの手続きを踏むものだから、矛盾が膨らんで無視できなくなって・・・
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







デンゼル・ワシントンが自らの演技力で作り上げたまったく独自で斬新な悪役像も、基本的にはロス市警の一刑事でしかないことを考えれば、話に説得力を持たせるためには1.実は腹に正義のダイヤモンドを失わずに持ち続けた男である、とする(その場合、話は小さくまとまらざるをえないが、最後に“正義”は残る)か、2.今まで誰も創造したことのない、想像を絶する大悪党とする(その場合、どんな話になるのか文字通り想像もつかないが、史上まれに見る大傑作になるかもしれない)かしかない。もちろん説得力なんて気にしないのであれば、徹底的に荒唐無稽にして娯楽大作路線を突っ走るという安直な“第三の道”もある。(個人的にはこの道も大好きだ。)

しかしながら、製作サイドが第2の道を希求していたことは痛いほど分かるのだが、そしてデンゼル・ワシントンが実に生き生きとトリックスターを演じ上げたことは最大限に評価されねばなるまいが、(これらの点を考えると実に残念だが)最悪の選択を、つまり、道を踏み外してしまった。

アロンゾ(ワシントン)が「羊を守るために狼を倒す。狼を倒すために、自分も狼になる」というセリフを吐いたときには、真実味があった。だがこれは、世の中で本当に大切なことは、羊の生活であるということを知る者のセリフでないと、意味がない。狼の生活をおくるうちに、狼の生活の魅力に溺れ、狼の生活に取りこまれていく自分を呪う、そんな心の葛藤は描かれていてもいい。だが彼は、自分が狼であることに満足し、羊を見下すばかりか、羊を守るという本来の仕事を忘れ、自分のためにしか、否、自分のためだけにしか行動できなかった。

路上でロシアン・マフィアの待ち伏せを受け、乱射されるマシンガンになす術もなく晒されるアロンゾの最期は、自分の力を絶大と過信し、力に溺れる小悪党のたどる末路としてはふさわしい。だが物語の前半でワシントンが産み出したキャラクターの輝きと比べると、そのギャップに実際以上に惨めさを感じる。見据える方向を誤った、チープで腰砕けな牛の糞映画である。

がまあ、一時期顔のラインが崩れたかに見えた、イーサン・ホークのハンサム・ガイ復活はうれしい。(髭のせいかも?)

65/100(02/07/28見)

付記:いくらワシントンの演技が凄くても、俺だったらこんな作品での演技に票は投じないね。人種問題はアカデミーの泣き所なんだと思う。どんな世界にもかならずあることさっ。

(評価:★2)

投票

このコメントを気に入った人達 (8 人)サイモン64[*] 緑雨[*] ハム[*] トシ[*] ゆーこ and One thing[*] peacefullife テツヲ kiona[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。