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[コメント] 地獄の警備員(1992/日)

「それ」
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







元相撲取りの警備員(松重豊)の登場シーンがまずすごい。シルエットだけで映される「異様な長身」というわけのわからない外見的特徴。これがまた、そのわけのわからなさゆえに不気味な恐怖を醸し出す。正体不明なもの、想像力を超える地点にある存在への原初的な恐怖、ともいうべきか。

この正体不明の警備員が繰り広げる意図不明の殺人劇は、けっきょく最後までその意図を明らかにされない。常人とは異なる「絶望的な時間」が流れているという彼が、結末部近くでヒロインの秋子(久野真紀子)にもらす、「それを理解にするには勇気がいるぞ」「俺という人間がいたことを覚えておけ」といった言葉。ここには、自分たちが生きる世界とは全く別の世界が、決して理解しえない絶対的な他者の存在というものがあるのかも知れない、そういう想像力を去勢してしまうこの世界の平板さへの呪詛がこめられているように思える。

無理矢理こじつけてみれば、「それを理解するには勇気がいるぞ」の「それ」とは、そのような、常人の想像(力)の埒外にあるなにものかが存在する「かも知れない」という可能性の総体と言ってもいいかも知れない。それはつまり言葉と物の結びつきから逸脱してゆく「語りえぬもの」に他ならない。そして、それを言葉でなくあくまで映像で語ろうとする姿勢こそ、この監督の映画人としての面目躍如たるところなのだろう。そんなことを思った。

(評価:★4)

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