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[コメント] 台風クラブ(1984/日)

見るアホウから踊るアホウへの跳躍=「あっち側」へのジャンプ。体育館における「踊るアホウと見るアホウの葛藤劇」はMY映画人生5本の指に入るフェイバリット・ショット。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







舞台で踊る少年少女たちと、じっと座ってそれを見つめる少年(三上祐一)。中学時代の初見時、この長回しがワケもわからず鮮烈だったことだけを覚えていた。この間あらためて再見してみて、その記憶に間違いのないことを確信した。実はそれほど好きではない相米慎二だが、このショットだけは特別。ゼッタイに魔術がある。映画の魔術が。思いこみかも知れないが、誰が何と言おうと僕にとってはそうなのだ。

祝祭が最高潮へと少しずつ昇りつめてゆくような、奇妙な高揚感とたぐいまれな緊張感の持続に引き込まれるうちに、いつの間にか映画の位相というか、空気のようなものが変わってしまっていることを確信する瞬間。嗚呼、自分もまた「あっち側」へ連れて行かれてしまったのかと。それは身震いするような錯覚。しかし僕自身の身体は、にもかかわらず依然としてスクリーンを「見るアホウ」にとどまりつづけ、どうあがいても彼らのところにまで手が届かない。熱狂に浮かれながらも、そのどうしようもないズレをもどかしく感じる僕自身の葛藤劇、研ぎ澄まされた興奮。

「同じアホなら踊らにゃ損損」とは言うが、見るアホウと踊るアホウの間にまたがる深淵が大きければ大きいほど、それを飛び越えたときに生じる代償もまた大きい。日常と非日常の間のエネルギー差はときに「死」すらも呼び込む。破壊と蕩尽。マジメ君は一回暴走すると歯止めがきかない。だからこれは、最初から踊るアホウでいたほうが人間なにかと生きやすいもんだ、という教訓劇でもあるのだ(ホントかよ)。

(評価:★5)

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