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[コメント] 花よりもなほ(2005/日)

素晴らしい部分を指摘しながらあえて2点にしようか、それとも不満を書き連ねてから4点をつけようか散々迷ったあげく・・・。そんな嫌味なことを考えてしまうのは、ひとえに是枝に対する過度の期待のせいであり、もう一度素直な気持ちに戻ってみれば・・・・
ぽんしゅう

けっこう、面白かったのは間違いないのです。

私は『誰も知らない』のレビューで、「一見ドキュメンタリーのように見えつつ実はまったくの虚構世界をいかに創り出すかという是枝裕和演出は、デビュー4作目にしてひとつの完成型をみたように思う 」と書いた。だから是枝監督が5作目に、娯楽時代劇を選んだという事実は確かに驚きではあったが、私にとってはある程度うなづける選択でもあった。

冷戦後の世界を覆う「復讐の連鎖が生む巨大な不信と不安」という、今世界中の映画作家の前に立ちはだかるテーマに果敢に挑むにあたって、是枝監督が選択したアプローチは前回までの手法をちょうど180度転回させた「一見ルーチンな定番ドラマのように見えつつ実はまったくの日常的現実世界をいかに創り出すか」という試みであった。

一歩間違えば平凡を画に書いたような失敗に陥りかねない新アプローチへの模索として、手始めに創られたのが本作品だ。その無謀なトライアルにあたって、唯一是枝監督がこだわったのは「客観的視点」の堅持という姿勢だろう。本来の人情劇とは、話しの進行にともなって観客が登場人物の境遇に共感し感情移入することにより成立する。つまり、観客の主観をいかに巧みに映画内に取り込むかにかかっている。

私には、本作が終始意識的に感情移入を拒み続けているように見えてしかたなかった。観終わって人情劇としても喜劇としても、どこか物足りなさが残るのは、観客が安易に感情移入するような主観性が周到に封印されているからだと思う。是枝監督は、人の感情の中に事実が埋没してしまうことを極端に嫌う人なのだろう。この「客観的視点」の堅持こそデビュー以来、彼が守り続けてきた創作姿勢なのだ。

しかし、ただ単純に客観性を保つということは観客の前で足踏みをしているということでもあり、そこから一歩踏み出すには新たな創作的工夫や仕掛けが必要であり、本作の何処かにそれが存在したかというと残念ながら何も見当たらなかったのも事実だ。

ただ、だからといってこの作品をつまらないと斬って捨てる気持ちにどうしてもなれないのです。何故なら、次回作に期待がつながる映画ほど面白い映画もない。それもまた事実だから。

(評価:★4)

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