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[コメント] 犬神家の一族(2006/日)

邦画界の危機を救うべく登場し、逆に足を引っ張った事に気づかないのか市川崑
sawa:38

2005〜6年は空前の邦画復活ブームだったと映画界は湧いている。だが、そこに危機感を感じている関係者も多い。  「TV映画」・・・

昨年の例で言えばそのほとんどがTV局が絡んだ作品であり、『フラガール』『ゆれる』といった作品は希少な例外として存在している。邦画界はTV屋が安易に映画の世界に踏み込んでくる事に苛立ちを感じつつも、その豊富な宣伝力と集客能力を認めざるを得ない状況なのである。

「映画らしい映画を!」という声が一部で起こっているらしい。「キネ旬」によると本作はプロデューサーの一瀬隆重市川崑監督に猛烈に働きかけたらしい。このプロデューサー氏も上記の邦画界の危機を訴えているひとりなのだが、わからないのはそれがどうして本作のリメイクに直結するのかなのだ。

一瀬氏はリメイクにあたり、いくつかのルールを市川崑に提示している。1:脚本と音楽は前作から変更しない。2:松嶋菜々子を起用する。など・・・「キネ旬」の両氏によると「湖の死体」を「川の死体」に変更しようかと思ったとか書かれてもいた。

そんなどうでもいい事が真面目に書かれていた。がっかりした。

前作は確かに邦画界に衝撃を与えた作品だった。サッカーで言うと、細かく早いショートパスでボールを繋いでスピーディーにゴールを狙うというような作品だった。コマ落としとストップモーションを組み合わせた金田一の疾走シーンやモノクロの光学処理を施した展望台の回想シーンなどは「鮮烈」という言葉では言い表せないほどのインパクトだった。

映画館で本作を鑑賞し、そして今再び前作を鑑賞し直した。多少シーンの追加・削除・変更はあれど、笑ってしまうほど「同じ」なのに驚いた。カメラアングルまで同じなのには苦笑するしかなかった。何故か上記の「鮮烈」な映像は「普通」の映像に切り替えられていたが・・・

市川崑のリメイク好きには首を傾げたくなる。『ビルマの竪琴』はモノクロではあのビルマの「赤い土」が表現出来なかったという理由がある。これは理解出来た。カラーで現代の若者たちにも鑑賞し易くしたという配慮もあるだろう。だが、本作のリメイク、それも同じ俳優が同じ演技をするという「映画」。さらに同じ脚本を流用するという「映画」。

演劇の世界では毎日同じ役者が同じ芝居を演じ続ける。『放浪記』のようなロングランや歳月を隔てての再演による芝居の変化を楽しむという楽しみ方もある。だが、映画の世界でコレは「あり」なんだろうか?

結局のところ、このプロデューサー氏の思惑は「TV映画」に対抗する「映画らしい映画」を市場に投入するという事では役割を果たしたと思う。だが、それは邦画界にとって良い事だったのだろうか?リメイクする必要のない作品をあえてリメイクした感がある。さらに言わせてもらえば、TVドラマやコミックの映画化によって復活した映画界の「底の浅さ」が透けて見えてしまった気がするのである。

2007年も大量の邦画の封切りが予定されている。昔聞いたことのあるタイトルがずらりと並んでいる。観客にとって安心感があるタイトル。興行側にはTV局による宣伝効果による安定した収益が見込まれるタイトル。

何だかなぁ・・・この空前絶後の邦画ブームにワクワクしながらも末端の邦画ファンの私は不安で不安でしょうがないのです・・・。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)Shrewd Fellow プロデューサーX 甘崎庵[*] プロキオン14[*] ロボトミー torinoshield[*] ペペロンチーノ[*]

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