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[コメント] 泥の河(1981/日)

後半になるに従い、観ていてきついシーンが目白押し。しかし目を離すことが出来ません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 宮本輝の直木賞受賞作(「泥の河」「道頓堀川」「蛍川」の三作を「川三部作」と言ったりもする)を映画としては初監督となる小栗康平が仕上げた作品。今や国際的にも評価が高く、日本を代表する監督の一人である小栗監督は下積みの時代が長く、TV番組の助監督をずっとやってきた人だが、その経験は決して無駄にはなってなかった。低予算で撮影されたモノクロ映画にもかかわらず、モノトーンの強みを最大限に活かした傑作に仕上がっている。

 物語については確かに原作通りなのだが、やはり映像化されることによって、文章では伝えきれない部分が徹底的に強調される。特に当時の特殊な生活環境にある悲惨な暮らしぶりが強調されているし、どうしても分かり合う事が出来ない人間関係というものも明確化されている。特に主人公が子どもだけに、無邪気な友達関係が展開されるのだが、その中で普通の人間には理解出来ない硬いものが心の中にある事が分かってしまう。

 主人公信雄はちょっと気の弱い普通の子どもで、積極的な喜一に引きずられつつも、あくまで普通の友達関係を作ろうとする。だが、喜一の生活は普通では理解不可能なもの。その中で喜一は無邪気に、残酷な心を持つに至っている。現代で言えばPTSDという言葉で表されるのだろうが、太平洋戦争の記憶もまだ残るこの時代にあっては、そんな子どもも数多くいたのだろう。心の中には他者を決して入れることのない硬い部分が誰でもあるものだが、これは殊更に重い。最後の最後にその理由が分かるのだが、そこで喜一が去ってしまうことで、結局分かり合うことは出来ないまま。だからこそ、去っていく喜一に対し、「友達にはなれなかった」という思いを抱かせ、その余韻が残る。

 本作の色はとにかく暗い。モノクロで暗いというのは、一見致命的な弱さなのだが、本作に関してはそれを逆手に取った作りがなされている。つまり通常画面は出来るだけ暗くして、特に淀む河の暗さを強調することによって、やりきれない現実がの雰囲気を作り出し、そこに時折逆光を用いることによって、強調点を明らかにしている。それが明確に現れたのはラスト近く。暗闇の中をもぞもぞと動く蟹が燃やされる時に、それまで闇に包まれていた汚い船縁が光を受ける。更にその照り返しを受けて笑い顔を見せる喜一の表情はぞっとするものがあった。そしてその次の瞬間…その時の加賀まりこの裸身もやはり逆光を受け、目がギラギラと輝いてるんだよね。ショックシーンというか、もの凄く怖いシーンだった。

 実際、この作品は心地よさとは無縁だ。ここに現れているのはやりきれない現実と、理解出来ない人間関係、そして現実から目を背けてしまった後味の悪さ。

 しかし、そんな不快な作品なのに、画面から目を背けることは出来ないし、更に心に残っていく。これを新人が作ったというのだから恐るべしである。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)IN4MATION[*] chokobo[*] ina TOMIMORI[*]

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