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[コメント] クライマーズ・ハイ(2008/日)

迫力のある人間群像劇だ。登場人物の多さはひとりひとりの陰影が鋭いことから逆にこの映画のダイナミックさを深めている。演出、出演者のボルテージの高さが伺われる力作だ。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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そうなんですね。もうあの事故から23年。歳月は限りなく過ぎ、今ジャンボは多少便数は少なくなったけれど普通に飛んでいる。当時より万全なメンテをしていると思えない小事故が今でも続いている。この事故を教訓にしていた時代は過ぎたのではないか、と思われるこの頃であります。

この映画は原作同様飛行機事故を扱ったものだが、それに伴う一新聞社のサラリーマンたちの一週間の動静を描いたものであり、事故の内容にはそれほど言及していない。

新聞記者って、結構我々日常に生きているものからは遠い存在だ。毎日、新聞を読んでいて、たまに休刊日だったりすると苛苛する時もあるほど僕らの生活になくてはならないものであります。その新聞がどのように作られているのか、ということがこの映画で赤裸々に描かれている。

まず、共同新聞社の存在がこれほど重いというのを初めて知る。外国メディア的に重要なのかなあなんて思っていたので、最新でしかも正しい情報を彼らが各新聞社に出していたことは驚きで、とても興味がわきました。

また、新聞社の各部内抗争も興味深くこの映画は一新聞社でなく一企業をそのまますっぱり切り取った爽快感さえ感じます。サラリーマンを経験された方ならこの感覚はいやでも忘れられないものであります。そんな、日本社会の男社会的な企業の穢さ、しがらみ、欲望、妬み、しかしそれをばねに企業としての塔を立ち上ろうとする熱気のようなものを感じ取ります。

販売部と社会部、編集部とのまるでヤクザの出入りのような立ち回りがものすごい迫力で、これはリアリズムからは遠いかもしれませんが、とても映画的にも面白かったです。登場人物がこれほど多彩なのに性格付けができていない人物はひとりもおらず、全員見事生きて駆け回っています。これほどのハイテンションを維持できる演出力もさすがですが、俳優陣には本当に拍手を送りたい気持ちがいっぱいです。これには1シーンだけでも多重カメラでばしばし撮った目まぐるしいぐらいの迫力が功を奏している。

主役の3人(堤真一、堺雅人、尾野真千子)、よくやったし、素晴らしい演技だったが、とりわけ社会部長の遠藤憲一は硬軟を見事描き切る出色の演技で彼の代表作でもあるといって過言ではないぐらいの素晴らしさだ。

台風というか、戦争のような状態も1週間で回復するが、新聞紙上での一面の意味合いは読者からすると彼らほど意識していない気がする。だが、それだけで社内で一つの戦争ごとなのである。こういうことはサラリーマンだったら、同様の経験をしているはずだ。ただ、この出来事は20年以上前の話である。この状況は僕らも経験しているが、現代でもこれほど上から下まで巻き込むほど企業の人間臭さを持っているのだろうか、、。

企業というものを実にすっぽりダイナミックに切り取った映画であったが、僕はこの映画でジンわりと涙が出たのはやはり乗客が妻、息子宛に狂おしいばかりの恐怖と闘いひたすら家族宛に感謝の気持ちを伝えた一枚のメモの朗読であった。そうなんだ。あの時、僕たちがこの事故で一番感じ取ったのは、新聞で520人の乗客のひとりひとりの人生を読んだその瞬時だった。報道とは何なのか、そんなことをエンドクレジットを見ながらずっと考えていた。

(評価:★4)

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