精神科の閉鎖病棟という、かなりのデリカシーを要求されるステージを扱って、松尾はかなり健闘しているのではないか。

もっぱら明確に演じられる大竹しのぶの病状、そして隠微ながら訥々と演じられる蒼井優の病状。それらと一線を画す為に、蕁麻疹、アルコール依存症といった目で観てわかりやすい病状を割り振られたのが内田であり、失われた記憶が明らかにされる後半とコミカルな前半とでは別物のように見えるのが弱点ではあるが、それをステロタイプな描写に陥ることなく普通の女性の延長線上に描いた松尾の才覚は賞賛に値する。

自分も入院したことはないにせよ、躁鬱症で院内に知り合いを作ることも多々あったから、カリカチュアライズされているものの病院の中で「ああ、こんな人いるよなあ」と言う感慨はあった。その意味、大竹の非常識さはリアルである。そして、外のこの世界にも良く見かけられる人物でさえあるところが、全くもってお上手である。

「節分かよ」とか「お尻タッチで落ち着く」とか「サイクリストとともに疾走する老婆の自転車」といった松尾らしい多彩なギャグをちりばめてはいるが、（ゲロとか鼻汁とかは勘弁して欲しかったが）あくまでこれは『17歳のカルテ』のようにモラトリアムを卒業する内田という女の物語であろう。暫く観ないうちに汚れ役が充分こなせるようになった彼女を含めて、皆いい仕事を見せてくれたとの感がある。