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[コメント] 藁の楯(2013/日)

度重なる顔面接写は説明調の心理芝居を捉える以上に、顔面そのものから実存的なグロテスクネスを引き出す。美男美女であるはずの藤原竜也永山絢斗松嶋菜々子もここまで極端な寄りで撮ると何とも変な顔をしている。藤原殺害を企む連中は律儀に全員が面妖な目つきで、これはさすがに記号的すぎる演技演出。
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**ネタバレ注意**
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巻頭の射撃訓練のシーン、硝煙が銃口のみならず銃身自体から立ち上ってくるカットが格好いい。

さて、有り体に云ってシチュエーションは『ガントレット』の変奏だが、緊張と興奮は右肩上がりを維持できていない。少なくともその理由のひとつは簡単で、すなわち物語上のクライマクスと、車輛・弾薬・人員等の投入量が最大を誇る視覚的スペクタクル上のクライマクスが一致しないからだ。

移送開始直後の高速道路シークェンスは全般に好調で、逆走トラックの侵入、口先だけの小僧かと思われかけていた永山の颯爽とした活躍、『ダークナイト』譲りのトラック縦転、など実に面白い。続く新幹線においても車内の通路で勃発する銃撃戦をテキパキ捌いてテンションは高値安定を記録する(このあたり藤原竜也『カメレオン』が頭をよぎりますが、銃撃演出はさすがに阪本順治が八枚上手です)。

ところがこれ以降雲行きが怪しくなる。疑心暗鬼と心理的葛藤の仕掛けは再利用品ばかりで、あるいは小説であればこれでも緊張の加法的増大が期待できて正しくクライマクスを導けるのかもしらないが、この映画においてはそれ以上に食傷の感が強い。設定されていたはずのタイムリミットもサスペンスを組織しようとしない。さらに続くのがよぼよぼの爺との押し問答では、たとえ文章的あるいはテーマ的には適切であろうとも、アクション映画の幕は閉じない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)MSRkb ぽんしゅう[*] 寒山拾得 けにろん[*]

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