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[コメント] リアリティのダンス(2013/チリ=仏)

このような自伝的作品が(願望を交えた改変を施したらしいのだから、よりいっそう)自作解説としても成立する程度に、やはりアレハンドロ・ホドロフスキーは私的な作家だった。たとえ物語に幾多の艱難が押し寄せようとも、それがドタバタ喜劇でさえある陽性の映画として撮られたことに快い驚きを覚える。
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アレハンドロ少年を演じた子役イェレミアス・ハースコヴィッツはリアクション芝居に鋭い感性を覗かせ、とりわけ怯えの表情は一級品だ。母のパメラ・フローレスは『シェルブールの雨傘』から迷い込んできたかのように、あるいは『タバコ・ロード』のマージョリー・ランボーのように歌い続けて已まない。むしろそれらよりも遥かに朗々と本格オペラ風に歌い上げるので馬鹿度が果てしないが、それがいつしか心地よい慣れを経て、曰く云い難い叙情味を醸し出してしまうのだから恐れ入る。また、大統領の暗殺を試みたアダン・ホドロフスキーの辞世の台詞「犬が仮装する世界で生きていたくない!」も多大なる共感をもって永く記憶に留めたい。

さて、この映画において私が最も目を惹かれるのは「集団」の画面だ。黒死病患者。ダイナマイト事故で身体の一部を欠損した半裸の男たち。消防団(ハースコヴィッツ少年が団のマスコット役=犬の後釜を嫌がるのにも笑う)。犬仮装コンテストの出場者。ナチスの行列。あるいは浜辺に打ち上げられた大量の魚。「キッチュ」などと呼び習わされてきた色彩感覚はなるほど健在で、砂漠ファンを裏切らない展望的なロケーション・カットを忘れていないのも嬉しいが、「集団」のみに潜在する視覚的な活力こそがここでの躁的なスラップスティック性の髄である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ゑぎ[*] disjunctive[*] 水那岐[*] けにろん[*]

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