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[コメント] ワンダーウーマン(2017/米)

主人公が正しすぎて息苦しい。それを補償すべく「(西欧的)世事の疎さ」が機能するロンドン・シークェンスはひとまず面白い。また、大概は映画に相応しいはずの「光る」投げ縄も、その露骨なディジタル描画感が興を削ぐ。『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』のラウ・チンワンから鞭使いをまねびたい。
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**ネタバレ注意**
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主人公ガル・ガドットが正しすぎるとは、(たとえばバットマンやアイアンマンと比較すればさらに瞭らかなように)彼女の目的も、それを達成するための行動も一点の曇りなく正しいということだ。その点で、アレスなる悪役が実在し、姿を現すという顛末にはずいぶん呆れた。彼女は、彼女が施されてきた教育のために「人間が戦争という愚かな振舞いに興じるのはアレスの企みによる。したがって彼を抹殺すれば人間は目を覚まし、戦争は終結する」と信じている。当然クリス・パインはこれを真に受けない、アレスなど存在しなくとも人間は戦争することを知っているからだ。だから次のように展開するのが作劇の理ではなかったのか。

「ガドットは、ある段階でアレスが実在しないことを悟る。自身が受けてきた教育が無欠ではなかったこと、人間はアレスに唆されなくとも戦争に及ぶ愚かな生き物であることを思い知る。しかし、彼女は深い葛藤の末に(パインら脇の人物の動向に影響されて)意を決する。それでも戦争は悪であり、それでも私は人間を愛している、と。そして戦争を止めるために再び立ち上がる」

しかしアレスは実在したので(確かにその正体はガドットが当初見定めたダニー・ヒューストンではなく、デヴィッド・シューリスではあったけれど)、これはすべてご破算だ。もちろん、彼女の葛藤や苦悩がまったく描かれていないわけではないが、それは彼女の実存や人生観・世界観を脅かすほど大きなものではない。彼女の正しさは依然揺るぎない。

作劇がオーソドクスを外れること自体は大いに歓迎するけれども、それがオーソドクスを貫くよりも大きな実りをもたらさなかったならば、単なる不見識としか見做されないだろう。

(評価:★3)

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