[コメント] キッズ・リターン Kids Return(1996/日)
映画「キッズ・リターン」は、劇場で見ることなくDVDで見たんだけど、激しく衝撃を受けた映画だった。
この映画は久石譲のスリリングな音楽で裏打ちされたオープニングとエンディングの間に二人のキッズ(金子賢、安藤政信)を取り巻く若者や人々のいきさつが描かれて、ラストに「バカヤロウ、まだ始まっちゃいねえよ」という甘美なセリフで終幕となるのだが、これはもう、極めて映画的な手法で作られた映画だといえよう。
「映画的な映画」という意味では、「キッズ・リターン」は北野監督の最高傑作ではないかとワタシは感じる。もちろん普通におもしろい映画はその後もいっぱい作っているんだけど、「映画」というジャンルの表現形式に完全に乗っかった作品というのはこれをおいて無いのではと思う。
おそらく彼の価値観では同じ種類のものをたくさん作っても仕方ないのだと思っていて、なので、これ以降の作品で「監督ばんざい!」とか「アキレスと亀」みたいに、映画的なところから離れていくのも道理といえよう。
ナニモノかになろうとして、結局なににもなれない人々の群像を、一流のナニモノかに成り得た監督が暖かくつきはなして描くこの映画は、優しいようでいて結果的には残酷で、でも結局そこで描かれているのは普通に活きている私たち一般人の縮図だったりするわけで、本当にこう、面白い映画だなと感じられる。
映画を見て衝撃を受けたのはかなり久しぶりのことだ。
金子賢、安藤政信、喫茶店の母娘、タクシー運転手、モロ師岡、不良三人組、ジムの親父さんたち、中華料理屋のオヤジとその息子、ヤクザの連中などなど、それぞれの物語が交差して進行する様はうまく描いているなあと感心させられる。特にモロ師岡扮する「ハヤシ先輩」は、まさに現実社会にもこういう後輩をダメにしようとする先輩っているよなあと、つくづく嫌なな感じにさせられる。
結局映画の終盤、主人公ふたりは結局ナニモノにもなれず、それ以外の連中もなったんだかなれそうなんだかよくわからない感じで、だけどそれが現実の俺達なんだぜという北野監督の声が聞こえてくるようなエンディングだった。そんな登場人物たちを甘い目線で放任的に描く監督自身は偉大なる成功者だけど、ビートたけしはその自分の状況を、かなり醒めた目で見ているんだろうなと、この映画を見て思った。
なにかこう、気持ちが揺さぶられるような映画だった。そういう意味で良い映画だと思う。
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