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[コメント] ローマの休日(1953/米)

「人生は不自由ばかりさ、違う?」「いいえ、違わないわ」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







○『或る夜の出来事』から物語の骨格を借りている。コルベールのスキャンダルを秘密裏に追う新聞記者ゲーブル。そしてジェリコの壁は落ちないという反転が施されている。

○ 変な薬物という古典的な喜劇のアイテムが採用されている。ヒス起こしたヘプバーンに「安定剤」が注射される。医師は説明する。「これで気持ちが楽になり、よく眠れる。新薬ですよ」。ヘプバーンは気持ちが楽になって逃亡し、そして翌日の昼過ぎまで所構わず滾々と眠り続ける。この新薬、効き過ぎたのだ。翌日以降もやたらハイなのは副作用に違いない。

○ 本作は奇跡的なことに、つまらないシークエンスがひとつもない。どのギャグも判りやすく、アクションがメインで、サイレント直系のギャグが多いのが嬉しい。質量とも充実したギャグがこのラブコメ名作の圧倒的なところと思う。

○ ヘプバーンのらせん階段の脱線。ペックの部屋見て「ここはエレベーター?」。部屋を云われた通りに銃担いで(子供たちから)警備しているアパートの管理人。なぜか西瓜買わされるペック。オープンカーから両手離して立ち上がり写真を撮る、パパラッチ魂炸裂のエディ・アルバートのアクション。サイレント好みのベスパの無軌道な突進。船上パーティで喧嘩が始まると楽団はマーチを演奏し、ヘプバーンがギターを打ち下ろす際にドラムをロールする。ペックを追って鼻を摘み水中に飛び込むヘプバーン。

○ ベッドを占拠して寝ているヘプバーンを、ペックはシーツごと隣のカウチに移す。ヘプバーンは羽根のように軽やかに反転して着地し、寝言でペックに礼を云う。このヘプバーンの身体感覚は抜群。こんなに痩せているのかと世の娘を嫉妬させるショットでもあるのだろう。バンプ女優には決して出せない魅力。ここが私的ベストショット。

○ ペックのアパートに泊まったと気づいたヘプバーンは、思わずと云った調子でパジャマの中に手を入れる。これは、襲われていないかと陰部を確認したように見える。こういう艶笑譚が好色ネタにならないのは、無論ペックが絶世の美男子だからである。

○ 薔薇の花を束にしてヘプバーンに買わせようとして、金を持たないと知るとそこから一本だけ抜き取って無料で進呈する花屋の親爺がいい。

○ ヘプバーンはスペイン広場でジェラードの食べ残しを背後に投げ捨てる。今や見苦しい当時の常識。

○ ヘプバーンは最後には、もう自分が王女だとバレていると知っている。一方ペックは、自分がパパラッチとバレていないだろう、と思っている。この非対称性の騙し合いの物語が「真実の口」の周りで展開される。

○ ベスパ暴走の後の、警察の件(ここだけ音声なしの処理がされている)。ここだけが判り難くてイマイチ冴えない。被害者たちが握手を求める処を見ると、必要以上の金額が補償されたらしいが、補償金をどう捻出したのかが判り難い。多分ペックが新聞社を騙くらかしたのだろうが、あんな契約社員みたいな身分でそれは可能だったのだろうか。まあ、どうでもいい細部ではある。

○ ドラマの時間は後半に行くほど加速するのが作劇の基本。本作もこれに忠実である。夜から夜へ、24時間のプリンセス逃避行のドラマのなか、昼から夕方にかけてのローマ遊覧から、次の「夜9時の」船上パーティへ、時間は数時間ジャンプしている。画面が夜になると、もう夜なのか、もうこの愉しい旅は終わりなのかと、とても惜しい気にさせられる。上手いものである。

○ 左翼人トランボとしては、当然に皇族制度の不条理を喜劇として指摘する意図があっただろう。天皇に人権はなくていいのか、と同じ切り口である(職業を問われて「広報みたいなものよ」とヘプバーンは云う)。ペックが最後にパパラッチにならなかったのは、皇族のなかに人間を見つけたからに他なるまい。

○ ニュープリントでは「Story by」としてトランボの名前が上がっている。再見して一番感動したのはここだった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ナム太郎 jollyjoker[*] DSCH けにろん[*]

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