自分の近くの、極めて個人的な世界を描いてきた河瀬直美。ときにそれが監督本人と作品の距離をとりにくくさせてしまうのではないかと危惧をおぼえさせることもしばしば（それがいいという方もいるかもしれないが）。そんな彼女がみずから演じると知ったときは、とても嫌な予感がした。ものすごくプライベート性が強く、生臭い仕上がりになっているところを想像した。（だから私は河瀬が劇映画を撮り始める前のドキュメンタリー諸作をあまり観たいとは思わない。）

実際はそれほどでもでなかった。決してうまいとは言い難いものの、思っていたより自分の作り出した世界に溶け込んでいた。途中からこの母親が監督本人であることを忘れていたぐらい。彼女の作風からするとそれは好ましいことだと思う。（北野武やナンニ・モレッティとかだとまた別だろうが）

作品自体は前作の『火垂』を踏襲したつくりになっている。（いい意味でも悪い意味でも）対象を執拗に追っていく「動」のカメラワークも健在。

ただ、全体を通すと少し物足りなかったという感は拭えない。本作での祭は一つの見せ場だが、『火垂』の路上の踊りほど立ち昇ってくるような興奮に溢れたものではなかった。もっと強烈な生の息吹を感じさせてほしかった。

ラストは大仰に過ぎた感もなくはないが、それなりに印象的だった。出産を終えた母親の身体、監督自身の身体から、それを見届けていた何かがふわりと離れ、路地をくぐりぬけ、空に舞っていく。長回しの多かったここまでのカメラの視線が、消えた双子の兄のものであり、また兵頭祐香の父など今まで死んでいった者たちのまなざしであったことを、観る側に悟らせていくところは美しかった。

個人的にはこの監督にはものすごく期待している。いつか傑作を撮ってくれるものと首を長くして待っていたい。（★3.5）