[コメント] 華氏451(1966/英=仏)
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ブラッドベリ原作の映画化作品。トリュフォー監督の作品の中では異色作になるんだろうけど、監督の美的感覚が遺憾なく発揮されている。ラストの雪の降る林を徘徊するシーンが何より印象的。それ以外にも様々なシーンで絵画的な構図を使い、全般的に非常に美しい作品に仕上がっている。
画面をほどよく彩るSFチックな小物の使い方もさりげなくてかなり好感を持てる。近未来と言う設定だと都市部が用いられる事が多いが、田舎町を使ったのがなかなかの慧眼。人の生活そのものがそれ程変わっているわけではなく、多少便利な道具が増えただけと言うのがなかなかに心憎い演出(これを「しょぼい」と称することも出来るけど、日常的なアイテムだったらしょぼくて当たり前。さりげなく変わったものをさも当たり前に出す事がSF映画では大切だ)。目を惹くモノレールもなかなか使い方が良い。例の飛ぶ人たちに線がくっついてるが見えてしまうのはちょっといただけないものがあるけどね。
キャラクターを見ると、ウェルナー扮するモンターグは微妙な表情を上手く使っていた。最初の使命に燃える消防士として登場しながら、家に帰るとやりきれなさそうな表情に変わる。そして後半の本を得てからの自信に溢れた表情。最後の、まるで老成したかのような満足した表情。と、変化が実に見事だ。そしてその妻リンダと謎の女性クラリスの2役を演じたクリスティが好演を見せる。本作はSF的な設定よりも人間の表情の方をしっかり撮る事の方が重要だし、それに良くはまっていたと思う。さすが監督と言うべきか。
本作の肝は本というものを非常に前面に押し出したところだが、燃やされる本をじっくり見てるとなかなか味わい深い。『ロリータ』やら『地下鉄のザジ』やら、兎角映画化された作品が次々と燃やされるのは、何か大変勿体ないような、監督の遊び心が見えるような、複雑な思いがする。読書好きな私としては、結構胸がギューッと来るんだよな。思わず何の本だ?と身を乗り出してしまった。スロー再生で見てみたくなるね(笑)
そしてラストに登場するブックマンの存在感。これが又実に良い。思わず真剣に自分だったら何の本になろうかと考えてしまったよ。そこでも「私は『火星年代記』です」とか言うお遊びが出てるのも良し(言うまでもない事だが、これがブラッドベリの代表作とされる)。
ここまでで褒めちぎってるけど、ただ原作が更に素晴らしく、その雰囲気に至ってなかったのがどうしても残念(映像の限界かも知れないが)。それでマイナス★1にせざるを得ない。
ところでブックマンの中で日本語で「他人の陰口になにかと聞き耳を立て…」とぶつぶつ言ってのがいたけど、あれは何の本なんだ?
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