[コメント] ベルヴィル・ランデブー(2002/仏=ベルギー=カナダ=英)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
最初に僕が目を奪われたのは「犬の動き」でした。時計の音で目を覚まし、電車に吠えるために二階に上ろうとするブルーノ。彼はその時、片方の後ろ足を真後ろに伸ばしてググーッと「伸び」をするんです。この仕草、我が家の犬も同じ動きをするんですよね。そう思って観ていると、机にあごを乗せる仕草、こちらを見ながら空っぽのゴハン皿をガリガリと引っ掻く仕草、寝る時に後ろ足でベッドメイキングをする仕草、全てが非常にしっかりと「犬を観察した人が描く犬」なんです。
この映画の面白さの一つに「ブラックなまでにデフォルメされた人や物」というのがあると思います。当たり前のことですが、このデフォルメという作業は、対象を綿密に観察して見切った上で行わないと上手くいかないんですよね。成人したシャンピオンの割れたふくらはぎの筋肉も、ボーイスカウトの少年が指を三本立てる仕草も、年老いた三姉妹の一人が意味も無く口から出す「パッ」というような異音も、彼らをしっかり観察研究した結果でないと出てこないはずのものなんです。きっとお婆ちゃんが自転車を調整するシーンなどでも、僕が知らない色々な細やかな動きが取り入れられていたんでしょう。
その結果として一番面白かったのがレストランの給仕でした。あんな給仕絶対にいます。いや、僕は会ったことありませんけど、絶対にいるはずです。少なくとも、いると思わせてくれるあの視点が楽しいんです。
物事をじっくりと見つめ、その本質を的確に捉え、効果的に誇張して描く。この作品では、人にも犬にも街にも船にも、同様のそんな尽力が為されており、その小さな一つ一つの「点」の置き場所として物語が存在しています。そんな膨大な数の「点=星」が散りばめてある物語だからこそ、観客に深みのある印象を与えてくれるのだろうと思いました。
ちなみに点数が4点なのは、音楽に関する「量的な」不満からです。オープニングが余りにも秀逸だったため、その後に続く目くるめくような音の洪水を勝手に期待しちゃったんです。まぁ確かにその後も音楽は効果的に用いられていましたが、作品のタイプとしても、もっと賑やかに多彩に音楽を使って良かったんではないかと思います。というかもっと聞きたかったっていうだけなんですけどね。
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