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[コメント] 小間使の日記(1963/仏=伊)

この物語を非凡にしているもの。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







思わずニヤニヤを禁じえない、あいも変わらぬブニュエル・テイスト。ブーツ収集癖、幼女の足を這うカタツムリ、悪態つきながらドアを足でガンガン蹴る牧師、下女を厩に誘う婿養子(かな?)、さらにはヒゲへの拘りや幼女の鼻汁をとってやる何気ないシーンにさえブニュエルを感じてしまう自分は、相当に氏の毒が回っているのだろうか。

ともあれ物語の方はというと、政治色が強いのがブニュエルにしては異例かもしれない。散々苦しめて食用のガチョウを殺すような幼女強姦魔の嗜虐趣味(この場合彼がロリコンというよりは、嗜虐癖を持っていることが重要かと思われる)が、あたかも愛国主義に向かう原動力のように扱われているのが、何ともユニーク。本当の危機に対して機能が麻痺している警察機構や、危機に対して不感症気味な社会を温床としながら、人々の底に眠る暴力への嗜好の助けを借りつつ、ファシズムは台頭していく、そういった流れで見れば良いのだろうか(どーも政治には疎いので、イマイチ自信がない)。

ただ個人的にさらにユニークだと感じたのは、主人公セレスチーヌ。下男のジョゼフを警察に突きつけたのは、必ずしも彼女の中にある正義ゆえの行動だとは思えないトコロがオモシロイ。表向きでは幼女を殺した犯人を許せない素振りを見せつつも、明らかに下男ジョゼフの性癖に並々ならぬ関心を寄せている(実際ジョゼフと彼女は同じものを持っていると、ジョゼフ自身は言っている)。おそらく彼女が警察へ彼を突きつけた理由は、表向きの市民の義務よりも、自らの中にある性癖が呼び覚まされることに対する、遠まわしの防御本能からくるような気がする。ゆえにラスト近くで彼の釈放を聞き彼女の表情が見せたかげりは、報復に対する恐れといった具体的な不安というよりは、フタをしたつもりのものが呼び覚まされる漠然とした予感をあらわしているのではないだろうか。

すでにブルジョワ社会への道を選んでしまった彼女には、その性癖をあからさまに表に出す場などもなく、きっとモンテイユ家の人々のように、歪んだ形でしか欲望を満たすことはないのだろう。こうしてまた一人奇妙なブルジョワ人間の出来上がり、ってな感じか(笑)。ん〜、全くもって非凡な筋書きだ(コレが真っ当な解釈なら、の話だが)。

原作を書いたミルボーという人は、なんでも自然主義の作家らしい。そもそも自然主義というのは、人物や背景といった物事をできるだけ忠実に、ありのままに描こうとする姿勢からなるものだが、ここでのブニュエル氏の姿勢はある程度客観的でありながらも、もっと何と言うか、粘着質の仕事振りを見せているようだ。ドラマを描こう、何かを再現しようというよりは、本能に憑き動かされる人間の奇妙な生態の観察日記みたいだ。虫眼鏡片手に。そういえば虫眼鏡といえば気になることが一つ。時折画面が虫眼鏡のような凸レンズ越しに写されているような感触を覚えるのだが、コレってもともとなのだろうか。それともビデオのせいなのだろうか。

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オマケ:ルノワールの『小間使の日記』との比較。

原作は読んだことないのですが、同じ素材でルノワール氏が映画を撮っていて、コチラの方は鑑賞する機会に恵まれたので参考までにその比較を。まずは時代設定が違う。ルノワール氏の方は1900年前後位の設定になっていて、どちらかといえばこちらの方がこの作家の時代に近いらしいです。内容自体も驚くほど違っているので、差し障りがないトコロをいくつか。

・モンテイユ家ではなくて、ランレール家。

・主要な登場人物にランレール夫妻の息子が登場。セレスチーヌと恋におちる。

・ちなみにその息子というのは肺を患っていて、彼女が看護役。

・確か奇妙な性癖というのは、特に描かれていなかったような。

・ジョゼフは犯罪を犯すが、ブニュエル版のような性犯罪ではない。

さらにそれ以降のからラストへの展開は全く違ってきます。おそらく時代などから考えても、ルノワール版の方が原作に忠実である可能性が高いかと(というかブニュエル版がどれだけ破天荒であるか想像しただけでもオモシロイ)。ただ、ルノワール版がどれだけ原作に忠実かと言われると、どうも自然主義風味とはまた違った味わいを持っている映画のような気もしたので(作り物じみたセットの中での悲喜劇、といった感触)、いまいちはっきりしたことは断言できません。原作が手に入るのなら、是非読んでみたいものです。

(2002/8/22 再見)

(評価:★4)

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